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おじいちゃん

注。この物語は………
たぶん、冗談です。
勝手設定>坊ちゃん:ルーファス 2主:ナナオ 炎の英雄:ユリユシュ 4主:ノエル

「パーシィちゃんが土壇場で押し倒すに8000ポッチ」
 こういう展開に至る張本人はいつもテッドだ。まったく、どこでそんな悪いクセを身につけたのだろう。ぼくと暮らしていたころはそういう面があるなんて微塵も見せてくれなかったのに。
 ルーファスの眉間にレベル4のしわが寄る。
「8千だぜ? ハッセン! 分厚いステーキが食えるぞ~」
「あいにくだけど、菜食主義者なのでね、ぼくは」
「やいてめぇルック、ホントーにああいえばこういうやつだな。水を差すつもりなら、おいだすぞ」
 どこへ。
「いまどきそれっポッチのステーキなんてかなり微妙ではあるよなー」噛みきれないスルメ(というか、真実は乾ききった謎の軟体系……の足)(どこから出したのだろう、とルーファスはぼんやりと考えた)をムグムグしながら、ヒューゴがいらぬことをつぶやく。
「そりゃヒューゴの村は大イナカだそうだから流通経費だけで10万はかかるんだろうな。気の毒になあ」
「なんだと、この」と言いかけて、喉に詰まらせたらしい。咳とともに繊維の塊と化した軟体系が飛び出してきて、たまたま目の前にいたシエラの襟にぽちっと落ちた。
「おお、こばっちいのう」
 目が笑っていない。
 ルーファスは話を逸らされてはかなわないとばかりに、身をぐいっと乗りだした。
「テッド、ぼく知ってるよ。あれだけゲド隊長に、賭場は怖いし危ないディーラーもいるからやめておけって怒られたのに、先週またカブでボロもうけしたでしょ。あー、ひょっとしてこないだ、かっぱぎ王座決定戦で傭兵隊チームにちゃぶ台返しかましたの、まだ反省してないんじゃ」
「なんだ、真の紋章チームのくせして大人げない」と、ヒューゴ。
「うるせーな、つべこべつべこべ! いいかルーファス、金なんてのは、かっぱぐだけかっぱいで、使えるときに使っちまうのがオトナのやり方ってモンなんだよ!」
「そのとおりですよ」と言いながら、横からくくられた札束を投げてきた女性に驚き、テッドとルーファスは黙りこんだ。「クリスさんは安易に結婚なさらないに100万ポッチ。レイズなさってもよろしいですよ」
「ああ、レックナート様までそんな下世話な! 勘弁してくださいよ」
 ルックが泣きそうな声になった。
「人の痴情を賭けのネタにしやがって……」
「でもいちばんおもしろがってたのはジンバさんじゃないか!」
 テッドが声を張りあげて、そこにいた数名がが思わず同意の相づちを打つ。
 魔術師の島に監禁されて三日目。みなそろそろ暇になってきた。
「だいたいさ、いつまでこんなシケたところにいなくちゃなんねーんだよ」
「シケていて悪うございましたわね」
 ぎくっ。この氷のような高く透きとおる声は。怒らせたらたぶんいちばん怖いあの人。
「うちは特別養護老人ホームじゃないんですから、多少居心地がお悪いかもしれませんけど。これでもそれなりに気をつかっているんですけどね」
 語尾に、フン、というつけ足しがきこえる。
「セラ、これもまた人の世に触れるよい機会ですよ」
「ええ、レックナート様もおじいさまたちにあれこれ触れてお変わりになられましたしね」
 セラと呼ばれた少女はカンペキにキレかかっているらしかった。ジンバにお尻でも触られたのだろうか。怒らなければ、美人なのに。
「そういえば、あとの三人はどこへ行ったのかなあ」
 いままでぼーっと天井を見あげていた、この連中のなかではどちらかというと謎の男(テッドとは旧知の間柄らしい。名前はノエル。テッドもどこか彼には気を許しているところがあって、ルーファスはちょっとだけ嫉妬した)がとつぜん、ものすごくまともな疑問を口にした。
「そういえば」
「いないよね」
 テッドとルーファスは顔を見合わす。
 レックナート様がその謎にさらりとお答えになった。
「ヨシュアとナナオとジョウイは、竜で逃げました」
 微妙な間。
「それはそれは……なんて賢い有様で」
 禁断の沈黙破りをかましたのはヒューゴ。おそらくこいつははスピード重視で持久力に欠けるタイプだろう。
「案じなくともだいじょうぶです。まもなく戻ってくるでしょうから」レックナート様はにっこりと微笑まれて、「無駄です」ととどめを刺した。この人も怖い。
「おお、噂をすればなんとやら」
「セラ、迎えに出ておあげなさい」
「はい」
 優雅な身のこなしでさらりと階段を下りていく後ろ姿を見送りながら、なぜかルックが盛大にため息をつくのが見えた。
 そういえば、ルックはそもそもレックナートの弟子のはず。なんでいっしょになって監禁されているんだろう?とルーファスは思った。
 レックナート(とゲド隊長と、あの炎の人)が何を思って真の紋章継承者を力ずくで監禁状態にしはじめたのか、その真意はわからない。けれど、ルーファスとテッドは継承者といってもやや意外な事情があるし、聞くところによるとナナオとジョウイも紋章を半分ずつ持っているということらしかった。
 テッドがゲド隊長にやたら気にいられて、気を許したのが間違いだったんだぜ。ルーファスは心のなかでつぶやいた。
 真の紋章継承者というのは、もっとこう、目立たな~いように、人知れずって感じで、生きていくのが正解だと思うんだよなあ。それがテッドはちょっとばかり慣れているからといって、なにもあんなにめだつ行動をとらなくてもって気はするんだけど。
 よりによって、目をつけられたのがゲド隊長だものなあ。まさか真の雷の紋章を持っている人だなんて、ぜんぜん気づかなくて。ぼくはともかく、テッドはもう少し謙虚になって反省しなくっちゃ。
 ルーファスはテッドからソウルイーターを継承してから(けれど複雑な事情があって、テッド自身もまだソウルイーターを持っているというややこしい関係なんだけれど……ビッキーが悪いんだよ。あのうっかり時空湾曲娘がね。おかげでダブルソウルイーターだ。やばいったらありゃしない、とこの解説はルーファス)、なんでも悶々と考えこむクセがついた。テッドはテッドで、いっぺん三途の川を渡ってから垢が落ちたみたいに脳天気になった。壊れたのかもしれない。ぼく、知らない。
 そんな感じでいつものようにルーファスが悶々と考えこんでいると、例の三人がゲド隊長に連れられて戻ってきた。炎の人(名前はなんて言ったっけ。なんだか難しい名前でなんべん聞いても覚えられない)もいた。
「ヨォ、お帰り」
 ジンバの挨拶で、ヨシュアが一気に不機嫌になる気配がした。
 なんだかいちばん事態をを把握してなさそうなジョウイが、情けない声で必死に懇願するのが聞こえる。「ぼく、いっぺん妻のところに帰りたいんですけど」
 無駄無駄。旦那元気で留守がよいってカンジ?
「このまま何も知らされずオリの中というのも、退屈よのう、レックナート」
「シエラ殿、わたくしとていつまでもあなた方の自由を束縛する気はありませんわ。でもいまは、その時が来るまでみなさまの力を集めておかないといけないのです」
「その時など、わらわには関係ないことなのにのう」
「その時って、なんだよ。戦争でも起こすってのか?」
 テッドの問いに、黙りこんでいたルックが答えた。
「この世の終わりのことだよ」
「はあ?」
「なんだ。真の紋章を持っているくせにそんなことも知らないのか。フッ」
「いっぺん対決してみるか? ル ッ ク」
「のぞむところだ。おまえとはいつか因縁を断ち切りたくてうずうずしていたところさ。我が真なる風の紋章よ───」
「くそ、(マネして)我が呪われし生と死を司る紋章よ───」
「ふたりとも、おやめなさい。島をふっとばすおつもりですか」レックナートが制した。言葉の端に(あなたがたはほんとうに似たもの同士で困りましたね……)という内容が見え隠れする。
 この世の終わりと聞いて、うろたえたのはナナオとジョウイのふたりだけであった。あとは達観しているのが半数、意味わかってないのが半数。
「要はだ」ゲドがあとを継ぐ。「ハルモニアの動きがヤバい。ハルモニアのヒクサク神官長は真の紋章を集めているらしいが、目的が不透明だ。その上、こいつが」と、ルックを指さす。「見たという、この世界の行く末というやつだな。おれは未来のことは信じないが、ハルモニアの───というかヒクサクの、暴走を見逃すのはしゃくだからな。この方に力を貸すことにした。ユリユシュも同意している」
「そういうわけです、ハイ。みなさまご老体で、こういうことに巻きこむのはたいへん心苦しいのですけれど、まあ乗りかかった船と思ってひとつ」
 ああ、思い出したよ。名前。ユリユシュだ、このクソ丁寧な炎さん。
 っていうか。
「ルックの思い過ごしに99万9999ポッチ」
 あ、バカ、やめろテッド。
 レベル6魔法、永遠の嵐、風属性ダメージ1200。峰打ち。
 それを一方的に喰らって、テッドは気を失った。チーン。


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2005-02-07