Press "Enter" to skip to content

魚の子

 わっ! びっくりした!

 誰も居ないかと思った。こんなところでなにしてるの? あんた。

 ここはね、わたしのかくれがよ。誰も来ちゃいけないんだから。

 ひょっとして、あなたも隠れてたの?

 そっか。あなたも隠れん坊が好きなのね。

 もしかして……見た? ううん、いいのよ。別に恥ずかしくなんかないから。わたしね、いつも隠れてひとりで泣いているの。心配させてごめんね。

 お兄ちゃんもいつもひとりだよね。どうして? わたしは泣かないときはちゃんとみんなといっしょにいるよ。お友達だってできたもの。

 お兄ちゃんはお友達ができないの? わたしがなってあげようか。

 どうしてそんな目で見るの? 悲しくなっちゃうじゃない。

 お父さんみたい。ごめんね。お兄ちゃんはお父さんじゃないのに。でもね、いま、お父さんを思い出したの。お父さん、もういないの。

 ごめんなさい。ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったのに。

 お兄ちゃんも、お友達ができるといいね。でもね、わたしはもうお友達だよ。ね。






2005-02-11