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音のない世界のアリア

聞こえずとも、
話せずとも、
見えず、また関せんとも。
神の子、闇(くら)き人の世に在りて
あまたの魂みちびきたもう。はじめもいまもとこしえに。

音のない世界のアリア

 テッドは猛烈に不機嫌だった。
 天井からぽたぽたとつめたい雨水が垂れてくるからだ。
 こんなことは、本来なら起こってはいけない現象であるからにして。
 雨漏りを未然に防ぐべく、修繕に魂を賭けたテッドにとっては、冗談ですまされる問題ではないのである。
 ぽたぽたぽた。
 眉間にふかぶかとしわが寄った。
 アドレナリン値平常比三割増し。
 一カ所ならばまだしも、あっちからもこっちからも、ひっきりなし。
 予想したとおり。耐久年数などというまともな論点はすでに過去のものと見た。もともとが安普請のうえに、持ち主は適切な管理維持を継続する意志もない。よくこれで住もうなどと考えたものである。気ちがいめ。
 そもそも、これは住まいではない。道場なのである。設計者が相当な手抜きを働いたためか床下はスカスカ、密閉性を期待するほうがまちがいというもの。閉めきっていても室内で風を感じるのだから、勘弁してほしい。
 壁ひとつとっても、あとから便宜上つけたしたということがバレバレだ。築何年かは知らないが、柱のほうがあきらかに歳をくっている。その柱にしても害虫にほじくられたようなスジが無数に走り、いまにもペキッと折れまがりそう。遠くない将来に住人は屋根の下敷きになるだろう。
 とてつもなくスリリング。飯の種もヤクザなら、最期も博打とは華々しい人生設計で。地獄に堕ちろ、オレ以外。
 これはこれで、夏のあいだはそれなりに快適だった。湿気がこもらないのはよいことだ。ただし南京虫の大量発生には閉口したが。
 これからはひと雨ごとに本格的な冬に向かっていく。この地方は四方を高い山に囲まれた盆地なので、冬の寒さはことさら厳しいとのこと。真冬は極寒の牢獄になるにちがいない。想像しただけで心臓とムスコがきゅんきゅんと竦みあがる。
 いまでさえかなり耐えがたいのに、暖房器具という文化的な設備にいまだお目にかかったことがないのはどういうわけだろう。あまり考えたくないが、そんなものうちの赤貧道場には存在しませんよとか。
 気楽に笑っている場合ではない。現実問題として、ここの家主に油を買う金があるわけない。アルコールをぶちこんで燃やすなら話は別としても。
 よもや身体的お子さまに酒で暖をとればいいなどと言いださないだろうな。
 正気の沙汰とも思えない。しかしあり得る。天下御免のイカレ家主五十歳男やもめ。脳味噌が安酒で灼けてやがる。
 家主が金に窮しているのはいまにはじまったことではないが、このあいだのように酔っぱらい運転の馬車で突っこんだり、泥酔して戸口相手に八卦をかましたりしたら、ちょっとは反省して修繕費を捻出しようとする努力くらいはしてみてもいいのではないかと思う。
 そちら方面の誠意がはじめからあったなら、こんなささやかな期待をすることもないか。
 とにかく家主は何ごとにつけても大雑把な男だった。とくに世間体にはまったく配慮しない。そのへんの廃屋から使えそうな板きれを失敬してきて釘で打ちつけたのが過去に二回。あとは生活に直接の支障がないと見たか、ずっとほったらかしだ。
 ”体裁などくそくらえ”を形にしたらおそらくこの道場になる。
 鼻で嘲笑いながら、すばらしい生きかただとテッドは感銘した。必要でないものは徹底的に省略するという、できそうでなかなかできないこと。その思想にはテッドも共感できる。要らないのなら、好きこのんで重い荷を増やすことはない。
 似たような理論を唱える識者はけっこう多いような気がするが、我が身ひとつで実践しているのを見たのははじめてだ。あっぱれオヤジ。酒瓶を捨てたら完璧だ。
 だがしかし、こちらも細く短くつきあっていかなければならない。そのためには双方に妥協も必要である。目先に迫る一大問題として、寒いのはどうも。こちとらこう見えても、けっこうな老齢なのだ。だれも信じちゃくれまいけれど。
 底冷えする床を裸足で踏みしめるだけでも不満たらたらなのに、このうえ雨漏りの洗礼まで甘んじて受けろと。囚人じゃあるまいし、そんな文化黎明期の拷問などまっぴらだ。
 ……暖炉ってどうやってつくるんだろう。
 詮無いことを考えながら、テッドはしもやけで真っ赤に腫れあがった足の指を、もう一方の足でむちゃくちゃに踏みつけてかゆみをこらえた。
 憎々しげに天井を見あげる。
 鍾乳洞の天井みたいにしずくが何本もぶらさがっている。
 予想はついたけれど、こんなのはあんまりだ。
 無能を嘲笑われているようで、めちゃくちゃ腹がたつ。
 そのありさまを目にした瞬間、釘を打つのは気休めにすぎないとは思った。幽霊屋敷もびっくりのうち捨てられ感。こんな家、ただでくれると言われてもご辞退申しあげる。
 一夜の宿のつもりが二晩になり、一週間になり、そのあいだ、ため息ばかりついていた。
 いきなり天井が崩れてきやしないだろうか。ギシギシきしむ梁は持ちこたえるのか。ただでさえ眠りが浅いのに、不穏な夢を見てがばっとはね起きる。
 いっそのことなら火を放って、きれいさっぱり無に帰してしまい、焼け跡に廃材で丸太小屋でも組んだほうが精神衛生上、千倍はかしこいのではなかろうか。
 理想は目の前にちらついたのだが、その衝動はぐっと堪え忍んだ。自分のものでもない家を勝手に灰にしてしまうのは気が引ける。というかきわめて悪辣な犯罪行為である。たとえ家主の許可を得ても、となり近所に類焼でもしたらそれはそれでおおごとだろうし。
 しかたなしにテッドは屋根にのぼってトンカチをふるう覚悟を決めたのだったが。
 慣れぬ作業は遅々として進まず、やれどもやれども糠に釘という感がつのる。だが、テッドも漢。はじめたからには意地というものがあった。
 めんどうを見る対価を要求しない家主に恩義も感じていた。宿代およびメシ代には遠く及ばないだろうが、感謝の意を態度で示すのも、礼というものである。
 夏は終わり、短い秋もあっという間に過ぎ、雪の気配がただようようになった。三ヶ月にも及ぶ格闘の成果はそれなりにあがっているように思えた。
 しかし昨夜からの豪雨はそんな自己満足をありがたくも木っ端微塵にしてくれたのだった。
 肝に銘じろオレ。見たか、大自然に情などない。
 あっちでぽたぽた、こっちでぽたぽた、ついでに心にもぽたぽた、やむことのない涙雨。
 意気消沈するテッドをだれが責められよう。
 道場なのだから心身鍛練と割り切るのも前向きな手ではあるが、それもなんだか特別に虚しすぎる。
 テッドはぶんぶんと首を振って、底辺の考えをわきに追いやった。へこんでいるあいだに道場がキノコの温床になってしまっては弁解の余地もない。それでなくとも木の床は長年の放置でいいあんばいに腐り、菌糸の楽園という雰囲気なのに。
 ユキノシタでも大量発生したら冬場の食糧として備蓄できるかも。ほんの一瞬ではあったが、食神の啓示が頭をよぎった。
 問題をすりかえてはいけない。生活はサバイバルにあらずである。
 せめて屋内に暮らせるあいだだけでも、最低限のプライドは貫かねば。
 ありったけのバケツをかき集めて、雨漏りの箇所にそなえつけようと、たわんだ床をぞうきん片手に走り回っていたときだった。
 中央の門が乱暴にあいた。

 大粒の雨が氷のような突風をともなって侵入してくる。
 テッドはぶるっと身ぶるいした。
 道場は門下生もおらず、客人もふだんはめったにおとずれない。しかもこんな暴風雨のなかを、いったいどこのだれだろう。
 あわてて迎え出たテッドの顔が不信感に固まった。
 土足厳禁の修練場にどかどかと厳めしい泥靴であがってきた男は、招かれざる客という危険なオーラをこれ見よがしにまとっていた。
 堅気の者ではあるまい。物騒なサーベルを腰からぶら下げ、下卑た笑みをリップピアスつきのゆがんだ口元にうかべている。
 ひょっとしたら、道場破りのたぐいだろうか。「たのもう!」とは言わなかったけれど、これが新手のスタイルなのかもしれない。それだったらとんだご足労である。気の毒だが、狙う場所をまちがった。ここは道場とは名ばかりの個人住宅で、アル中の中年と居候のこぞうが身を寄せあって住んでいる、おもしろくもなんともないおんぼろ長屋だからだ。
 武術指南をお望みでしたらうちではできかねますから、どうぞよそを当たってくださいと、張り紙をしておけばよかったかもしれない。
 それとも債権者か。まさか、借金取り立て?
 よく見たら、二十歳そこそこといった感じの青年である。少なくともテッドの実年齢よりはだいぶ若い。尖った印象を受けたのは、その若さのせいかもしれなかった。
「おまえ、誰よ。オヤジはいねえの」
 青年はだるそうな声で問いかけた。
 オヤジ、という唇の動きはそれでもはっきりとわかった。
 テッドは困惑して、それから首を縦に振った。オヤジはこの家にひとりしかいない。該当するアル中男はこの大雨の中、合羽をはおってでかけていったのだ。どこへ行くとは聞いていないが、思うに借金の懇願だろう。金のことは、居候の前ではおくびにも出さない。
 その日を暮らす金にも困っているのに、男は酒をやめなかったし、どこの馬の骨ともわからないテッドを追い出そうともしなかった。
 ろくでなしだが恩はある。
 たとえ一宿一飯のささやかな恩義でも、もらったものは後腐れなく、ただし相手をたてて等価未満で返すのが主義だ。
 不在のあいだにもめごとの種をつくってしまったとあらば、恩を仇で返すようなもの。
 ただでさえ当道場は、厄介払いをしたくてうずうずしている周辺住民に目をつけられているのだから、めだつ騒ぎはできるだけ避けなくてはならない。孤児を拾ってきて住まわせたことだけでも、すでにかなりのよくない噂が広まっているのだ。これ以上心証を悪くするようなことがあれば、町長名義でご町内から永久追放されかねない。
 オヤジがいなくて不幸中の幸いだった。いまはアルコールで足がよれよれだが、腕にはそこそこ覚えのある男である。しかも短気で、呑んだらけんかっ早い。ついでに己のちゃらんぽらんさを棚にあげて、軽薄な若者を成敗するのがなによりの趣味。こんなのと対面したら十中八九、大立ち回りというスペシャルコースだ。
 青年は不格好なピアスをじゃらつかせて、大股に近寄った。
「だれ、って訊いてんだ、ヨ」
 頭をぽんぽんと二回叩かれて、テッドは怯えたように目をあげた。
 敵も成人にしては小柄だが、自分よりは力が強そうだ。うかつに逆らっては痛い目に遭うかもしれない。
 だれ、という質問はかろうじて理解した。しかしテッドには、それに答えるすべはなかった。
「なァ、口、きけないの。おまえ」
 青年は蜂蜜色のつぶらな目をまばたかせて、からかいぎみに吐き捨てた。
「く、ち。わかる? ココよ、ここ」
 頬をのあたりを小突かれる。
 幸運だ。さっそく気づいてもらえるとは。
 正確ではないが、とくにまちがってもいない。誤解を招かずそれを説明するのは困難に思われた。テッドは少しためらってから、うなずくことでひとまずの肯定を示した。
「ふーん……」
 青年はテッドのあごをおもむろにつかんで、乱暴に上向かせた。
「オレには出てけってえれえ剣幕だったのに、こんなガキ飼ってどうするよ。あのイカレオヤジ。ヤキがまわったな。へっ」
 ようやく真相が見えてきた。道理で見たことがあると思ったら、蜂蜜色の独特な目がまんま瓜二つではないか。アル中と道場破り、親子の因子に疑念の余地無し。
 張り巡らしていた警戒が一挙にゆるんだ。放蕩息子がふらりと帰ってきたのにちがいない。あのオヤジにこんな大きい息子がいたとは意外ではあったが、遺伝子はうそをつかない。
 そういうことならば、立場が下なのはこちらのほうだ。敵意を向けるのは筋違い。
 解放されてから、テッドはぴょこんとお辞儀をした。頭を下げることは慣れている。上下がはっきりしたら、苦でもなんでもない。
 そこではじめて相手が雨でびしょぬれなことに気づいた。なにか拭くものをと周囲を見渡してみたが、新しいタオルなどという気の利いたものがあるわけもない。
 まさかぞうきんを手渡すわけにもいくまいし。
 いきなり窮地におちいったテッドはなにかひらめいたように、奥の部屋に走っていった。
 ばたばたばたが遠ざかり、すぐにまた近づいてくる。
 寝床から自分の使っているつぎはぎ毛布を引きずってきたのだった。
 テッドはそれを、お座りくださいとばかりに床にひろげてみせた。
 すき間で惰眠をむさぼっていたらしい一匹の小鼠が、仰天して右往左往する。テッドは息を呑んで、あわてて足で蹴散らした。
 青年はぷっとふきだして「どうも」と言った。
 お鼠さま就寝中の毛布をすすめたなんて、とんだ醜態だ。テッドは耳まで真っ赤になって、何度もごめんなさいと頭を下げた。
「いいから、いいから。はっは、なつかしいぜこれ。オレがガキんちょのころ使ってたやつじゃんよ。あんがとな、ちび」
 青年はくしゃくしゃになった毛布を感慨深げに敷き直して、尻を下ろした。
 一生懸命なテッドに気をよくしたのだろう。こちらも最初よりは剣が薄れている。どうやらテッドのことを一応は認めてくれたらしかった。
 テッドが裸足なのを見て、青年は苦笑いをした。
「そっか、靴のまんまだと、オヤジにぶっとばされっな。あんまり久しぶりなんで、忘れちまってたぜ」
 厳つい靴を、何本もベルトをはずして脱ぐ。
 単体でも相当な重量のありそうなブーツだ。かなり使いこまれている。旅でもしているのだろうか。
 一般の住居や宿屋では靴を脱ぐ習慣はない。だが道場は別である。武術を指南する施設はたいがいこのスタイルだ。足の裏を地につけることで、大地と己との関係を密にするのだとかなんとか。理屈はともかく、ほとんど機能していないエセ道場でそれを頑なに守るアル中は、やはり並大抵の神経ではなかった。
「冷てッ! うひょ~、ションベンが近くなりそうだ」
 ごもっともである。
 早く家主が帰ってきてくれないかとテッドはあせった。接客には慣れていないし、会話ができないと間がもてなくてとても気まずい。茶の一杯もお出ししたほうがよいものか、それともいつの時代の遺物かもわからぬ湿気った茶などかえって失礼にあたるだろうか。
 ハタと気づく。そもそも客用のカップなどという洒落たものがあるわけなかろう。
 思案くんと却下ちゃんがせめぎあって、ばたばたと斃れていく。
 青年がくつろいでいる毛布には、よくよく凝視すると夏の名残りのひからびた南京虫の死骸がからみついていた。残暑厳しい折に、全身をおしゃれな水玉模様にしてくれたにっくきアレだ。
 そういえば一度も洗濯をしたことがない。マズイ!
 バレたら今度こそ打ち首獄門。いやバレなくとも失礼千万。いまさら返してくださいなどと言えるわけがない。
 最上級待遇の客人をもてなしあぐねて、テッドは子熊のようにうろうろと落ち着きなく歩き回った。雨はひどくなる一方だし、オヤジは出先で酒を出されたらとうぶん帰ってこないだろう。さがしに行こうにも行き先の見当すらつかない。
 弱った。
 近年まれに見るピンチ到来かもしれない。
 めんどうな人間関係は苦手だというのに。
「あのさ。とりあえず座ったら。こっちならおかまいなく。お客サンじゃねえしよ」
 青年が見かねて手招きした。
 テッドはかっと紅潮して、照れ隠しにわざとらしくバケツをかかえた。雨漏りのほうを指さす。仕事がありますからという意思表示のつもりである。
「ああ、なるほどね」
 青年はよっこらと立ちあがった。
「貸してみな」
 そういう意味を伝えたかったのではないと、テッドは必死になって遠慮した。ところが青年はじたばたするテッドを頭から抑えこみ、バケツとぞうきんを奪い取った。
「モップだったら一気なんだけどな。そんな便利なもんあるわきゃねえよな」
 雨でびしょびしょになった床を四つん這いでせっせとぬぐいはじめる。
「はい、そこ邪魔、邪魔。どいてどいて」
 やめてくださいと訴えるテッドをびしっと叱りつけて、青年は言った。
「だからさ、いちおうオレんちでもあるわけだからよ。たまに帰ったときくらい孝行するマネゴトでもせにゃあ、マジご先祖さまに祟られるってやつ。な、やらせてちょんだい、ちびすけちゃん」
 そこまで言われてしまっては引き下がるしかない。たしかにテッドがちょこまかとするよりは効率がよい。こういったトラブルへの対処法は心得ているといった感じである。そんなに昔から雨漏り道場だったのだろうか。
 テッドは勤労する青年を横目で観察した。
 威力を誇示したがるゴロツキが好みそうな、派手な装飾具。飾り物とはとうてい思えない、馬でも一撃で両断できそうな武器。奇抜な色に染めあげた髪。生ぬるい社会から離脱したことを匂わせる、一匹狼のような態度。
 蜂蜜色の目はさびしさを訴えているような感じがする。どうしてそう、馴れあうことが厭いなんだよと虚勢を張るのだろうか。
 若さのあまり、力を暴走させて、いましかない輝きをナイフのように尖らせて。
 ほんとうは恵まれているくせに。真実から目を背けてなんの得があると。
 フーテンの父親でも、彼岸のご先祖さまでも、孝行する相手がいるだけでもしあわせではないか。
 まともな人種ではないと、世間は眉をひそめたろう。彼はいろいろな場面できっと損をしている。たとえば自分が宿屋だったら、こんなやばい男は泊めたくないと思う。それは宿が悪いのではなく、青年の自業自得だ。
 さびしさを知っている目は、本来はとてもやさしい。要はそのことに他人が気づけるかどうかだ。
 青年もしかりだ。最初はあんなにギラついていたのに、こちらの過失を笑って許したばかりではなく、率先して汚れ仕事を請け負おうとしたり、孝行を匂わせてみたり。ものが言えないテッドを、近所の大人たちがこぞってそうするような、嫌悪と同情のいりまじった好奇の目で見もしなかった。
 これ以上のいい人がいるか?
 ”いい人”
 テッドは口の端をゆがめた。
 また不確かなものを持ち出そうとして。その考えが短絡的で浅はかなのだと、再三己に言い聞かせているのに、性懲りもなく。
 そもそも、いい人と悪い人を区別する基準をどこにどうやって求めるというのだろう。根拠がまるでなくても、比較対象があれば安心するだって? そんなのは単に考えが未熟な証拠ではないのか。
 ああ……そうか。
 そうやって人を身勝手な自己基準で判断するから、いつも自滅するのだ。
 悪いヤツだと思いこんだ。ほんの数十分そこそこののちに、手のひらを返したように、善人だと信じきっている。そこにある恥ずべき落ち度には、目もくれず。
 彼がどういう人物かという決定は、あまり重要ではない。もっとも重いのは、そこに生じたひずみ。そういう気づきにくいものこそが、いつか己の命を奪うのだろう。
 気を引き締めなくては、意外な伏兵が終末を告げにくる。比較できないもの、見えないもの、わかりづらいものが、虎視眈々と狙っている。
 真実だけを見極めるのだ。なにがうそで、なにがほんとうか。目に見えるもののなかにヒントはない。心の目で視る。猶予はない。一瞬が生死を分ける。
 精神のケアなど、そのあとからでも遅くない。あるいはまったく省略しても結構。
 ゆめゆめ忘れてはならない。テッドは特殊なのだということを。人ならばだれしも許されることが、テッドにとってはことごとく当てはまらない。
 幼き日の彼は健気にも、その過酷な申し出を承諾し、そして契りをかわしたのだった。
 人とはかけ離れた、比類なきその生。呪われた生をテッドは誇りに思っている。それだけは欺瞞ではない。
 承け継いだ”それ”を守れるならば、贄となってもかまわない。
 請われたからでなく、宿命だからではなく。
 ほかならぬ自分自身で、そのもっともむごい道を選んだからには。
 恨み言はいわない。
 そう、他者を恨むことはしない。死によって罪を贖った祖父も、力を欲しがる強欲な愚か者どもも、無関心で平凡な人々も、バランスを喪った世の中も。
 どれもみな、さらさらと砂のように崩れゆく、もろく儚くて、愛しいもの。
 紋章を宿してから、浅い眠りの途中で、世界のいちばん果てを夢に見るときがある。
 そこは完全な静寂の世界。
 色も、音も、形もない。
 あるのはただ沈黙ばかりで、それから少し、悲しい。
 この愛しい世界とはまったく別のもの。
 けれどもふたつはつながった過去と未来。
 万物はいつかそこでひとつとなる。
 運命とは、そういうものなのかもしれなかった。
 それを見てしまったら、もはやあれこれ恨んでもしかたがない。
 ただし己に対してだけは、どこまでも厳しくありたいと願ってしまう。
 テッドの未来、希望、そして夢。あの日までたしかにそれは輝いていたはずなのに。
 もう幾たびの年月が流れたのだろう。
 テッドはわずか十歳になったばかりであった。
 故郷を滅ぼした忌まわしき焔の記憶。はるか遠い過去の物語となってもなお、断片は油を注ぐように不規則なリズムで鮮明になり、少年をさいなんで、つらい夢を見させる。
 あの日殺されたのは、村人たちだけではない。皆をしあわせにしたテッドの無邪気な笑顔もまた、帰らぬものとなってしまったのだ。
 死んだものをいまさら取り返そうなどとは、思わない。
 もう、いいじゃないか。
 生きるのは屍のためではなく、守るべき紋章のためだ。それでいいじゃないか。
 テッドは自分もぞうきんを持って、濡れた床を拭きはじめた。居候は居候の仕事をこなすのが本分。与えられる好意にただ甘えるだけでは、世の中渉っていかれない。
 黙々と水をぬぐい、バケツに絞る。その単調な繰り返し。それでも雨水はたえることなく落ちてくる。
 無駄にも思える終わりのない仕事。
 テッドひとりだったら、途中で放り投げていたかもしれない。嫌気がさしたからやめたとふてくされても、たぶん叱られはしないだろう。食用キノコ繁殖計画を実践したらあのオヤジのことだ、よくやったとむしろほめてくれるかも。
 けれどパートナーがいるとなると勝手がちがう。下っ端のテッドが先に休むわけにはいくまい。
 青年の仕事は手際もよく、居候よりもたっぷり十倍は役に立つように思えた。彼は見かけはアレだが有能な人材である。風来坊にしておくのはじつに惜しい。
「おまえさ」と青年はふいに言った。
 その接触に、テッドは反応しきれなかった。口の動きを認識してからでないと、応じるのは困難なのである。
 青年は咎めるでもなく、納得したようにテッドを見つめた。
「耳もきこえてないんだな」
 気配に気づいてようやく顔をあげたとき、青年はすでにテッドの目の前にいた。ぽんぽんと頭を二度、やわらかく叩かれる。
「みみ。くち。だめなんだろ?」
 青年は手を使ってそれを語ってみせた。相手がなにを訊きたいのかを察して、テッドは顔を赤らめた。
 べつに音が聞こえていないわけではないのだ。ただ自分の中では音が意味を成してくれない。音と意味が結びつかなければ、聞こえないのといっしょである。
 人の話は唇の動きや雰囲気を読めば少しはわかる。ようやくそこまではできるようになった。しかし、じょうずなコミュニケーションは望むべくもない。
 それでなくとも表情に乏しいのは自覚しているのに、会話すら成りたたないと人としては致命的である。愛想笑いすらしないかわいげのない子どもを、よろこんで引き受ける物好きなどいるものか。
 家主がどうしてテッドを厄介払いしないのか、それが不思議でしかたがなかった。

 その症状を呈してからだいぶ経つ。
 声に関しては、直接的な病気とは思えない。おかしいところがあるとしたら、むしろ頭のほうだと思う。
 医者にかかるゆとりはなし。よっていまだに原因不明のまま。しかし、こうなったのはわざとではないし、ましてや聾唖のふりをして人の気をひこうなどとはかけらも思っていない。
 発症のときまではまったく正常だった。頭を打った記憶もない。なのにある日を境にとつぜん、会話による意思疎通がひどく難しくなった。ただし苦痛や発熱といった顕著な症状はあらわれず、テッド自身もその異常に気づくのに思わぬ時間を要したくらいだった。
 言うなれば、ごく自然にスルリと移行した感じなのである。
 それからのテッドは、発声が心をかき乱すものだと認識した。言葉をつむぎ、そこに意味を持たせるという一連の行為。いままでとくに意識もせず脳内で片づけていたことが、急にとてつもない恐怖に変わった。
 音声が意味を有したとたん、テッドは激しいめまいと動悸に襲われる。
 本を読むのはおろか、町のあちこちにある看板も恐れるようになった。
 文字は意識して避ければそれで済むけれど、音は勝手に耳からはいってくる。その問題はすでに解決していることを知ってテッドはほっとした。
 テッドの得た静穏な世界は、とても心やすらいだ。それまでの生きかたが不作法に思えるほど、落ち着いて、居心地がよかった。
 病的な安定感はまるで麻薬のように、テッドの耳を、声をさらに蝕んだ。
 やがて人の声ばかりではなく、周囲から音という音が消えた。
 別段恐ろしいとは思わなかった。むしろ歓迎したくらいである。
 異常を異常とも思わない。ざわざわとさわがしかった世界こそがじつは狂気なのであって、テッドはようやくその混沌から解放されたのだと深呼吸した。
 おかしいが、音を失って、生きようとする意欲が以前よりも高まったような気がする。
 それまでは最悪だった。毎日死ぬことばかりを考えていた。
 自殺願望が別種のノイローゼにとって変わっただけかもしれない。だがいまのほうが格段に気楽である。
 自分で命を絶つのはしかたなしとしても、恐怖に殺されるのは我慢ならない。たかが言葉に生命をも危うくする恐怖心をいだいているなんて、知られたら一笑に付されるだろう。だがテッドにとって、それは切迫した現実なのであった。
 わかってもらおうなどとは思わない。ただ、このままの自分を許してほしい。
 いまオレは、死にたくない。
 死にあこがれ、それをためそうとしていたときも、ほんとうは死にたくなどなかったのだろう。思い描く死は痛みも恐怖もなく、甘美で、おだやかな結末だった。死というものの現実をいやというほど知っているくせに、自分だけはその試練を免れることを願っていた。
 老いる心、老いぬ身体。すれちがい、みにくく荒んでいくできそこない。欺瞞と良心の板挟みに押し潰されそうになりながら、崩壊していく自我をぼんやりと他人事のように見つめる日々。
 この手で終わらせられなかった理由はひとつ。
 弱い人間だったからだ。
 死を恐れ、生を恐れ。
 それを司るという紋章を承け継いだくせに、否定する自分。
 死にたくない。だけど生きたくなどない。
 テッドの存在は矛盾に満ちている。
 人は答えを教えてはくれなかった。すべてを理解してくれたのはソウルイーター。いまはテッドを支配するその紋章だけだ。
 身を守るすべをこっそり伝授したのは、あるいはこの紋章なのかもしれない。行きすぎた干渉はルールに反するのに、あまりの不甲斐なさにさすがに危惧して、背後から耳と口をふさいでくれたのかも。
 きっかけさえ与えてもらえれば、そこから先を実践することはたやすかった。潜在意識は身を守るために働くものだ。防衛本能はテッドも人並みに持っている。言葉を失わせることくらい、朝飯前である。
 ただし音の世界からごく一部だけを選んで遮断できるほど脳は器用ではない。やるならば徹底的に、いっそのこと音という音はすべて諦めるようにと、”テッド”は命令した。
 耳。聴覚は生きている。しかしそれ以上の情報はテッドには届かない。
 激しく落ちる雨だって、ザーザーという音に意味などない。触れてはじめてそれが雨だと認識できる。
 喉。声帯をふるわせることはできる。けれどもテッドは声による意思疎通ができない。
 意味がわからないという以前に、それが声なのだ、あるいは言葉なのだということに気づくことすらままならない。
 さすがに不便だなと思うときはある。それまでの生活が音に依存していたのだから殊更に。しかし、いいこともある。もっともむずかしいものを省略したおかげで、こうしてただの孤児のように平々凡々と暮らせる。
 ちょっと考えるとメリットは予想以上に大きい。すなわち、うっかり領域をのりこえ、だれかの魂に近づくような愚を犯す危険は、回避できるということだ。
 テッドがかかえる特殊な事情。そのことを忘れたら傷つくのは自分と、できるだけ人とは関わらないようにしてきた。なのに失敗を飽きずに繰り返した。たくさんの魂をかすめ盗って、己の罪深さに絶望して、泣いて、泣き疲れて、歩くのをやめて、自分などいないほうがいいのだと自嘲して、寒さに凍えて、闇に怯えて、また立ちあがって、みじめな気持ちで涙をふいて……歩いてきた。
 思えば、少しばかり荷を欲張りすぎたのだ。要らないものを思いきって捨てていれば、もう少し軽やかに歩いてこられたはずなのに。
 でも、いまのテッドならば大丈夫。
 死にかけた魂は健康な魂を道連れにしたがることもなかろうし、まかりまちがって他者の魂を喰ってしまっても、罪悪感を抱く心もない。
 あとはひたすらに、歩き続けるのみ。重荷もしがらみも捨て去ったのだから、以前のように挫けずともよかろう。
 涙だってとうに枯渇した。これでいい。失うものはなにもない。
 あと手放せるものといえば、意味を持たない自分の魂と、ソウルイーター。

「なんか、タイミング悪かったな」
 バケツの設置があらかた完了したころ、青年はぼそりとつぶやいた。
 それは独り言に近かったが、今度はテッドも察知できた。不可解な顔をして、青年を見る。
「やっぱ、縁がなかったってことなんだろうなあ」
 苦笑い。父親の帰りが遅いことを言っているのだろう。
 雨はまだ激しく降り続いている。そろそろガス灯のともる時間帯だ。
 宿をとっていないのなら、自分の家なのだから、ここで寝泊まりすればいい。テッドならば遠慮することはない。オヤジが今夜帰ってくるという保証はないし、だいいちこの天気だ。もてなしはできないが、追い出したと思われるのも困る。
 テッドは身振り手振りで必死に訴えた。
「あんがとよ。いいやつだな、ちび」
 ぽんぽん。頭を叩かれる。まるで父親が息子にするみたいに。
 蜂蜜色の目が柔和に笑んだ。
「ごめんな。そうゆっくりもしてられねえんさ。追いつかれるのも時間の問題……おっと、そいつぁこっちの話だ。ただなんとなくオヤジの顔が見たくなった、ってやつでよ。いま逃したら、もう逢えねえような気がすっしな」
 そしてつぎはぎ毛布に目を落とした。
「こんな布っきれの柄は憶えてるくせに、オヤジのなあ、顔が思い出せねえんだよ。むかしから、でぇっきれえで……いっしょに暮らしてても顔あわすことなんてなかったし、口きくのもいやだったから話なんざしたことねェし。母親いねえから世話にゃなったんだけどな。反抗ばっかして、飛びだして、それっきりだ」
 テッドを見る。
「名前、なんての」
「……?」
「な、ま、え。おまえの」
 テッドは指で床に名前を書いた。
「テッドか。オレはレックス。歳は」
 少し逡巡して、十、と書く。
「ふーん。それっぽっちしか生きてねえのに、世の中ってな……オヤジも、子どもひろって育てるようなタマじゃねえのに、変わっちまってよ。あの歳になると、寂しいんだろうなやっぱり」
 この親子に確執があったことは容易に想像がつく。心配ならば歩み寄ればいいのにと思いつつ、人はそんな単純なものではないということもテッドは理解できるつもりだった。
 テッドには、父と子のことはわからない。両親の顔はおろか、出生のこともなにひとつ知らないからだ。おじいちゃんと呼んでいた老人が、血のつながった実の祖父かどうかですら、もはや確かめるすべはない。
 どうやら、親という存在はありがたいばかりではないらしい。親だって、子どもの存在を鬱陶しく思うこともあろう。足をひっぱりあう関係なら、解消してもべつに構うまい。
 縁を切ることで双方が納得するなら、それもいいのではないかとテッドならば思う。
 それでもやはり、時が経てば人は変わるのだろうか。
 身体が成長し、あるいは老いるように、心も変わっていくのだろうか。
 レックスはなにかを深く考えながら、じっとテッドを見つめた。
 蜂蜜色の視線は、心の内まで見透かすように直線的である。いつもなら睨み返すところだが、今回はなぜか躊躇われた。
 どきん、と胸が鳴った。
 嘘がばれるような気がした。
「テッド」とレックスは言った。「オヤジのこと、頼んでいいか」
 テッドは驚きで目を見開いて、首を振った。
 そんなつもりで世話になっているのではない。そんなことは、むりだ。息子のかわりはテッドにはできない。
「どうして」
 理由を説明するのは、とても困難だった。口がきけたらまだ言い訳を並べられただろうに。
 伝わらないことがもどかしい。どんなに頑張っても、首を振って否定することしかできないなんて。
「遠慮してんの」
 ちがう、と首を振る。
「オヤジがきらいか」
 そうじゃない。
「あーわかった。こんな貧乏なうちだから」
 だから、ちがうって。そんなんじゃなくて。
 ぶんぶんぶん。
「首がもげちまうぜ」
 レックスはげらげらと笑った。その声が、ぴたりととまる。
「なんで、おまえ……泣いてんの」
 テッドはびっくりして、目尻に手をやった。涙がこぼれた自覚などまったくなかった。
 感情はいつもどおり冷静なのに、身体が勝手に反応してしまったらしい。
 やばい。
「テッド、どうしたんだ」
 どうしたもこうしたもない。訊きたいのはこっちのほうだ。涙があとからあとから落ちてくる。壊れた蛇口みたいだ。
「悪いこと……訊いちまったかな」
「………う」
 無意識に、声が漏れた。テッドは自分の声にハッとした。
 胸が苦しくなる。
 あわてて口元をおさえる。
 吐き気がこみあげてきた。ほんの少しだけなのに、吐息のようなものなのに、耳にこびりついて離れない。
「ちょっと。だいじょうぶか、まっさおだぞ。おい、テッド」
「ひっ……」
「ゲロか。がまんしてねえで、バケツに出しちまえ。カッコわるいことねえぞ。ほら」
 レックスは手のひらで、テッドの背中をさすった。平衡感覚がおかしくなって、ぐらぐらとする。喉元までせりあがってきたものをこらえきれず、テッドは吐いた。
「はあ、はあ」
「よしよし、ちっとはすっきりしたろ。悪かったな。ごめんな」
 パニックが過ぎ去ると同時に、テッドは自分の置かれている状況に愕然とした。子どものように背中から抱きすくめられている。おそらくレックスは落ち着かせようとそうしているのに、テッドはそこにとてつもない悪意を感じてしまった。
 右手がぞわりとする。
「……いや!」
 渾身の力で、テッドは相手を突き飛ばした。
「テッド?」
「さわらないで!」
「おまえ……声……」
「いやあ!」
 それは血反吐と同じだった。残酷な苦痛をともなう、断末魔の絶叫だ。
 封印が解ける。右手が目覚めてしまう。もう、ここにはいられない。屋根にのぼることも、つぎはぎの毛布にくるまることも、もうできない。
 耳をつんざくような轟音。ああ、雨だ。雨が天井を打っている。だけど、悲鳴はだれのもの?
 自分の喉からほとばしる叫びに、テッドは耳をふさいだ。
 頼むから静かにしてほしい。うるさい。うるさい。うるさい。
 黙らないのなら、殺す。魂を盗って喰ってやる。喰らいたくて、ずっとうずうずしていたんだ。
 テッドはゆらりと立ちあがった。その目はすでに正常ではなかった。顔には冷酷な笑みが浮かんでいた。
 どん、どん。
 門が開け放たれた。ずぶ濡れで駆けこんできた町の人たちは、中のふたりに向かって緊急事態を告げた。
「橋が流されて、人がのまれたらしい。おたんくんとこのオヤジさん、帰ってなかろうが!」
 呼応するかのように、テッドの右手が激しくうごめいた。
 ”喰ッテヤル……”
 雨の中に飛びだしていくレックスの後ろ姿が見えた。
 テッドの足は床にぴったりと凍りついたように、動かなかった。熱であたためられた身体はどんどん冷えきっていき、それとは反対に、仄暗い熱が意識の芯にちろちろと燃えはじめた。
 テッドは、またひとり残された。
 けれどいまいる場所は、先ほどまでの心やさしい、音のない世界ではない。
 まどろみは断ち切られたのだ。
「……さよなら」
 その言葉はなめらかな絹のように、するりと唇からすべり落ちた。


あなたを見守る方、み神は、
あなたをつねに覆う 右の手。
昼は太陽、夜は月
あなたを苦しめない。
み神は 災いみな遠ざけ、
あなたの魂をも 見守る。

—賛美歌156番~詩編121

2006-12-19