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風花蕭条

 静けさに驚いて目が覚めるというのはどこか矛盾しているけれど、実際それで飛び起きることができるのだから認めるしかない。いつもならあたたかいベッドから抜けるのが億劫でぐずぐずしがちな冬の朝も、こういう日ばかりは特別だ。
 スリッパを履くのももどかしく、カーテンのかけられていない窓に駆け寄った。
 窓枠に手がかかろうとしたそのときふと、あれ、と思う。
 言いようのない違和感とおぼろげな不安。
 だが次の瞬間、それはきれいに吹き飛んだ。窓の外にきらきらと輝く、きのうとはぜんぜん違う別世界にテッドは歓声をあげた。
「うわあ!」
 昨夜遅く上空を通過した低気圧がもたらしたもの。茶色く煤けた大地をすっぽりと覆う純白の雪が眩しくて、思わずぱちぱちと目を瞬かせる。
「おじいちゃん、おじいちゃん!」
 窓のむこうに祖父の姿を見つけると、こんどは裸足で部屋を飛びだした。木の床がぺたぺたと足の裏に凍りつく。今朝にかけて相当冷えこんだらしい。
 毛皮の敷かれた木の靴も冷たくて、しもやけになりそうだった。だがテッドはそんなことはおかまいなしに、うきうきとして真新しい積雪を踏んだ。まだ誰の足跡もついていない雪の上を歩くことは、幼いテッドにとって最上の愉しみであった。
 祖父は前庭で朝の薪割りをしていた。孫の起きてきた気配にも顔をあげない。いつものことである。
「おはよう、おじいちゃん。すごいね、雪!」
 テッドはきちんと挨拶をすると、返事の返らないことも慣れっこのように井戸へ向かった。薄氷の張ったくみ置き水に指先を突っこんで顔をしかめ、濡れた指でちょいちょいと目元口元をこすった。洗顔おわり。
 祖父はテッドには無関心だったが躾は厳しく、きちんとしていないと小言を言った。今朝も薪割りの手を休めることなく、気むずかしい声で不満を口にした。
「寝間着のままでどこに行く気だ?」
 テッドはぺろりと小さな舌をだして、「はーい、ごめんなさーい」と謝った。
 ぶるっと身震いし、テッドはぴょこぴょこと小犬のように駆け戻った。丸太を簡素に組んだだけのような家は、厳しい冬にも耐えうるように密閉性が計算されており、焚かれた薪ストーブは室内をだいぶあたためていた。窓から見渡すことのできる小さな集落もそれぞれの煙突から煙を吐いており、一日のはじまりを感じさせた。
 今日は森で探検しようか、それからソリで遊ぼうか。わくわくする心を抑えきれずに着替えたものだから服のボタンを一段ずつかけ間違えた。叱られたら直せばいいや、とその上から黄色のもこもこセーターをかぶった。編み物が得意なバーバラおばさんの手製である。羊の毛を刈るところからはじまっているのだから、さぞかし手間暇がかかったことだろう。この村に小さな男の子はテッドひとりだったので、村人は無愛想な祖父のかわりにテッドをことのほか可愛がってくれた。
 テッドより少しだけ年齢が上の、バーバラおばさんの娘は以前は姉弟のようにころげまわって遊んだものだったが、思春期を迎えてからはなんとなく距離を置かれてしまった。テッドにはまだその理由がよくわからず、ただ寂しいだけだったのだが。
 良くも悪くも狭い村社会である。現実にはそれ以上の、運命共同体という位置づけがあった。家々が温度を逃さぬよう密閉するように、この村は周囲との接触を完全に断っていた。
 食べるものはすべて自給自足。生活する術と人の知恵は大人から子供へと伝えられた。それからもうひとつ、この村に生まれ村に眠る者に課せられた使命のようなものも、頑なに受け継がれていた。
 稀に村から出る者はいたが、外からやってくる者はここ百数十年のあいだはひとりもなかった。だから村人の血縁は限界まで濃い。テッドもいずれバーバラの娘ステラとのあいだに生まれるであろう子供たちに村の教えと掟を語り継ぐ日がくるはずだった。だがまだやんちゃな盛りのテッドにとってはそんなことはずっと未来に考えればいい話だ。
 素焼きのコップに山羊の乳をくんで、薪ストーブの隅に置く。そうしておくと遠赤外線でちょうどよい温度にあたたまるのだ。祖父のためにもうひとつ用意すると、テッドの心はまた銀世界に飛んだ。
 おなかはぺこぺこだったし、早く朝食を済ませて森に行きたかった。それなのに毎日焼きたてのパンを持ってきてくれるエヴァドニが今朝はまだ来ない。占星術に長けているエヴァドニはかなりの老齢であったが、よく働き、時間もきちんとしていた。こういう日はめずらしい。
 エヴァドニの家の煙突もいつもと変わらず煙をあげているので、特別なことがあったわけでもなさそうだ。こちらから様子を見にいってみようか、と椅子から立ちあがりかけたとき、表で祖父とエヴァドニの声が聞こえた。
 窓からのぞくと、エヴァドニは手にパン籠を持ったままなにやら低い声で祖父に訴えていた。せっかくのパンがさめてしまうじゃない、とテッドはガラス越しに叫んだ。
「ねえ! なにしてるの? ぼくもうおなかぺっこぺこだよ」
 エヴァドニはこちらを振り向いて、その皺だらけの目尻をついと下げた。祖父が中に入れと促す。テッドは大急ぎで椅子をもうひとつ階段の下から引っ張りだした。
「おはよう、おばあちゃん! ねえねえ、すっごい雪だったね!」
 深刻な大人の話よりもやはりテッドにはそっちのほうが大事で、エヴァドニは苦笑しながら勧められた椅子についた。腰が曲がっているので掛けるのは難儀そうであった。
「おやおや、あたしら大人はこれから長い長い冬が来るねと気落ちしているのに、テッドはやっぱり子供だねえ。元気で羨ましいことよ」
 今朝降り積もった雪は春まで融けることなく根雪になるだろう。狩りや農作業をする大人たちにはつらい季節になる。テッドもけして毎日遊びまわっているというわけではなく、生活するための役割分担はきちんとこなしていたのだが、まだ彼にとっては働くというよりはむしろ遊びの範疇であった。
 雪のなかでの冒険はあんなに愉しいのに、どうして大人たちはいやがるんだろう? 冬はたしかに寒くてなにをするにも大変だけれど、そのかわり発見することも山のようにあるのに。
 テッドは不自由なエヴァドニの足に気がついて、いましがたの疑問にひとりで納得した。老いというものはどうにもしかたがないものなのだ。長い時間立ち話をしていたせいで関節が痛むのだろう。
「おばあちゃん、はい、膝掛け」
 毛織りの毛布を足にそっとかけてやる。エヴァドニはいつもするようにテッドの髪の毛を愛おしげになでた。
「ほんに、テッドはやさしい子じゃねえ」
 祖父を見るとにこりともしていなかったが、謙遜する素振りもなかった。いつでも祖父はぶっきらぼうで、体裁をとり繕うことをしない。どうしてこんなに気むずかしやの老人を皆は村長として慕うのか、テッドには少し不思議だった。もちろんテッドも、祖父をきらいではない。
 無関心な素振りをしながら迷惑であると突っぱねたことはただの一度もないし、昨夜だって嵐が屋根を叩く音に小さな孫が怯えていないか、ランプを持ってこっそり窺っていたのをテッドは知っていた。こんなに大事にされているのに、きらいになるわけがない。
 おそらく祖父は不器用で、感情表現が下手なのである。村人は全員そのことを知っているから、叡知にあふれた祖父を信頼するのだ。
 テッドは誇らしかった。いつか自分も祖父のような立派な村長さんになりたいと思った。
 あたたかい手で髪の奥をくすぐられて、テッドは嬉しそうに身をよじった。父も母もすでに亡かったが、村の人々がテッドの親代わりであった。
「……のう、さっきの話の続きじゃがのう」
 エヴァドニの口調が静かに変わり、テッドはまた椅子についた。山羊の乳がそろそろ飲み頃なので、自分のぶんだけでも持ってこようと立ちあがり、ついでに籠のなかからパンをとった。祖父は話が終わったら勝手に食べるだろう。
 素朴にこねて焼いただけのエヴァドニ特製パンは堅かったが、ちぎってよく噛むと小麦の味わいが口にひろがった。もぐもぐと口を動かしながらテッドはなんとはなしに二人の会話を聞いていた。
「星が、六十年に一度の凶界にはいることは知っておろう。もちろんその不吉な予言を封じるための策はじゅうぶんに時間をかけて施してきた。裏の祠とてそうじゃな。あれの発する強い磁場は強固に村を護るはずじゃ」
「ならば、なにも問題はなかろう。そのことはエヴァドニ、ツイーパのおまえがいちばんよくわかっているはずだが」
「わかっておる。だがの」とエヴァドニは窓の外に目をやった。テッドも無意識にその視線の先を追う。
「なにやら、いやな感じがぬぐえぬのじゃ。森の木々がざわめきよる。大地も落ち着きを失うとる。昨夜はわしの占星盤が手も触れぬのにぴしりと割れた。それがなにを意味するか、理由はひとつ」
 黙りこむ祖父にエヴァドニは静かに言った。「門が開かれようとしているのかもしれぬ。何者かがこの隠された紋章の村を狙うとる」
 テッドはぴたりと咀嚼をやめてじっとエヴァドニを見た。老婆の口から出た物騒な台詞の意味をテッドはおぼろげながらに知っていた。
「……ウィンディ?」
 飲みこみきれなかったパンをリスのように内頬にためて、テッドは訊いた。村の人々が恐れながら口にする魔女の名前。村の至宝を奪おうとたくらんでいる悪い女。
「ウィンディが、”アレ”を盗りに来るの?」
「テッド」と祖父は無表情で言った。「たとえばの話だ。村の者にはけして言ってはいけないぞ。おまえも食事がおわったらすることがあったのじゃないのか」
「あっ、そうだった!」
 テッドは弾かれたように立ちあがって残りの乳でパンを胃に流しこんだ。教わったとおり馬鹿丁寧にごちそうさまをすると、長すぎるマフラーをグルグル巻きにして家を飛びだした。
 無言で見送る祖父の眼には、ふだんは巧妙に隠されている翳りが宿っていた。
 エヴァドニもテッドの消えた玄関から視線を離さずに、ぼそりと言った。
「あの子は、この村で大人になる日がくるのじゃろうかねえ……」
 長い冬のその先を示すことなく自ら割れ散ってしまった占星盤に、エヴァドニは氷の塊を呑みこむような思いをしたのだった。
 祖父は気づかれぬようにそっとその右手を握りしめた。エヴァドニの抱いた不安と同じものを、祖父は右手の紋章に感じていた。
 いやな予感などというものではない。これは現実に近づいている破滅の足音だ。エヴァドニの大切にしている水晶玉は未来を映さなかったのであろう。バーバラの娘とテッドが大人になって家庭を築く未来を。当然だ。
 紋章が、あの子たちの魂を喰おうとしているのだから。
 祖父は眼を静かに閉じて息を吐いた。審判が下されるのはいつだ。明日か。あと幾つ雪の日を数えるのか。少なくとも、次の春が訪れるほど先ではなかろう。
(……テッド)
 祖父は心のなかで呟いた。この村で、我が孫として生を受けたばかりに未来を奪われた子よ。わたしは迷うことなく、おまえをこの村から逃がすべきだった。手許に縛りつけたのはすべて自分の利己主義からだ。
 わたしは、おまえを。
 次なる紋章の器として、飼った。
 うまくいかなかったらその魂を喰って、自分の命の糧とすればよいだけのこと。
 なんということだ。まるで悪魔の所業ではないか。
 ソウルイーターが牙を剥く気を起こさぬよう、ぎりぎりの線で無視をつづけ、保護を求めるのが当然のおまえを拒絶した。それは、エゴと愛情の境界。
 村の外でふつうに生きることもできたおまえを檻に閉じこめた。
 すべてはソウルイーターのため。いや、ちがう。自分のため。
 おまえのためになることなどわたしはいちども考えたことがなかった。
「……テッド!」
 エヴァドニは村長が自らの身体に紋章を宿していることを知らなかったが、むせび泣く老人の痛みはよく理解していた。あと何回、その皺の刻まれた手で焼くことができるかわからないパンを、そっと相手に握らせた。
 テッドは息をはずませながら雪原を駆けていた。
 兎や狐の足跡を見つけると、その脇に自分も小さな靴跡をくるくるとつけた。わざと顔から転んで冷たさを感じてみたり、雪玉を握って力まかせに木にぶつけてみたりした。
 愉しくてしかたがなく、先ほどのぞっとする話もすっかり忘れてしまった。
 あしたは、ソリ遊びにステラを誘ってみよう。
 すてきな思いつきに頬をゆるませて、村を見下ろす高台まで一気に駆け上った。
「はあ、はあ、はあ……わあ、すごい!」
 背後にひろがった光景にテッドは感嘆した。なんという美しさであろう。白一色に閉ざされた、悠久の大地。
 さらさらの積雪の表面が風に、花びらのように舞った。

 その夜、面食らうような出来事があった。
 いつものように決められた時間におやすみなさいを言って自室へ引きこもろうとすると、めずらしく祖父が引きとめた。
「今夜は冷えこむとエヴァドニが言っておった。テッド、わしのベッドでいっしょに寝てよいぞ」
「えっ!」
 テッドはみるみる顔を紅潮させると、「……いいの?」とうわずった口調で訊いた。
「わしは構わんぞ。むしろおまえがいると湯たんぽになりそうだからな」
 テッドはなんだか泣きそうな顔で、その割には元気よく祖父の大きなベッドにもぐりこんだ。気のかわらないうちに居着いてしまえという魂胆である。
 祖父のにおいがした。
 どうしようもないほど嬉しかった。物心ついたころからテッドには個室が与えられていて、誰かと同じベッドで眠ったことはいちどもなかったのだ。
 祖父はしばらくテーブルで書き物をしていたが、ランプの灯を落とすとベッドにはいってきた。
「なんだ。まだ眠っていなかったのか」
「う、うん」
 あまりの興奮で目が冴えて眠れません、とは言いづらくて、テッドはそめた頬を祖父の肩に押しつけた。拒まれるかと思ったが、祖父はふいに身体をテッドの側に傾けると、乱れた毛布を直してくれた。
「寒くないかね」
「あ、あっ、あったかい……」
 そうか、と呟くと祖父はやさしくほほえんだ。
 テッドはもはや眠るどころではなく、パニックを起こしかけていた。祖父はどうしてしまったのだろう。いけない毒でも盛られたのだろうか。
 動揺をなんとか散らそうと、テッドはふと思いついたことを口にした。
「ね、ねえおじいちゃん、ぼくね、すきな絵本があるんだ。しってる? ウサギの友だちのお話」
「さあ……知らんなあ。話してごらん」
「あのね……」とテッドは、村の誰かが描いてくれた粗末な絵本を頭に思い描いた。細部はよく憶えていないけれど、テッドのお気に入りというのは嘘ではなかった。
「あのね、白くてちっちゃいウサギさんがいたの。雪のようにまっしろなの。
 ウサギさんは臆病だから、まっしろい雪の日にしかお外にでられないの。
 だって、白い色はめだつから、すぐにみつかっちゃうでしょ?
 でもね、その晩、ウサギさんはどうしても寝つけなかったの。ベッドのなかでごろんごろんしても、ぜんぜんだめ。さびしかったの。だってひとりぼっちの穴ぐらはとっても暗くて、怖かったんだもの。
 だから、白いウサギさんは友だちのうちに行こうとしたんだ。友だちは黒いウサギさんだよ。黒いウサギさんも臆病だから、まっくらな夜にしかお外にでられないの。
 でも、その晩は黒いウサギさんは来てくれなかったんだ。
 だからね、白いウサギさんはおもいきってじぶんが行くことにしたんだよ。
 おもてにでて、ウサギさんはびっくりしたんだ。いつ降ったのかわからないけど、一面まっしろな雪景色だったから!
 そうだったのか、って白いウサギさんは思ったの。空はまっくらでも、白い雪がほんのり明るいから黒いウサギさんは出てこられなかったんだって。
 ちょっぴり怖かったけれど、白いウサギさんは勇気をだして、雪のなかにとびだしたんだ。
 そうしたらね、道のむこうから、黒いウサギさんがやってきたの。
 黒いウサギさんも、とってもさびしくて、ベッドのなかでごろんごろんしたあと、勇気をだして雪の上を歩いてきたの」
 祖父はうなずきながら、テッドの話を聞いていた。窓の外が雪明かりでほんのりと白い。二匹のウサギさんが出会ったのもこのような晩だったのだろうか。
「白いウサギさんと黒いウサギさんは、ひとつのベッドでいっしょに眠ったよ。黒いウサギさんのほうが大きかったから、白いウサギさんをだっこしてくれたんだ。あったかくて、うれしくて、眠く……ふわあ、眠くなって……きちゃった……」
 最後のほうはほとんどうつらうつらだったけれど、テッドは満足して瞳を閉じた。祖父がやさしく背をたたく手があたたかくて心地よかった。
 そのままテッドは、しあわせな眠りに落ちていった。

「……あれ?」
 静けさに驚いて目が覚めると、テッドはぶんと頭を一回振った。
 いま、夢をみていたか、おれ?
 となりでもぞもぞと蠢く気配がする。毛布を半分以上占領したその塊は半回転すると、寝ぼけ声をあげた。
「ウーン……テッド、寒い」
「わっ!」
 テッドは心底仰天して飛び退いた。瞬時にその正体を悟ると、今度はこめかみに青筋を浮かべて一喝した。
「なんだまたテメーはおれのベッドで寝てやがんだよ!」
 相手が毛布権を放棄したと見るや、塊の正体、ルーファス・マクドールは容赦なくそのぬくもりに巻きついた。そしてのんびりと笑う。
「だって、寒かったンだもーん」
「だからっておれンちまで真夜中に歩いてきておれのベッドにもぐるかー!?」
 ルーファスは悪びれた様子もなくケラケラと笑いながら言った。「いいじゃん。テッドだって、あったかいって言ってたくせに」
「言ってねーよ!」
「言った」
「言ってねーっつーの!」
 ルーファスはそれには反論せず、かっと眼を見開くとがばりと跳ね起きた。テッドはびくりとする。
「あっ!」
 ベッド下に放り投げた靴を勢いでけっ飛ばすと、ルーファスはカーテンのかけられていない窓に駆け寄った。
「テッド、すごい、すごいよ! 見てごらんよ!」
 見るまでもなく、とっくの昔に気づいている。外の音が届かないのは、積もった雪が街の喧噪を吸っているからだ。そうだろルーファス。
 それにしてもまあ、ガキのように悦んで。実際ガキだけれど。
 だが、気持ちもわからなくはない、とテッドはほほえんだ。雪の積もった日はいつでもどこか特別だ。いずれは消え去る蒸気の塊でしかないけれど、せめてその姿が白いときには存分に愛でてやってもよいと思う。
「テッド! 今日はソリ遊びをしようよ!」
「おまえ、棒術の訓練は」
「そんなの、あとあと!」
 テッドはニイッと笑って、悪戯っ子のように「ようし!」と言った。






ラプソディアのラストで赤月に雪が降っていましたよね。あれで季節柄描きたくなった風景です。
「本州一厳寒の地」なる看板がある故郷を思い出すなあ!(どこだ)

2005-11-29