Press "Enter" to skip to content

108 themes for Ted, within twitter

お題配布処はこちらです

108 themes for Ted, within twitter

  1. mythogenesis 【神話の発生】
    『はじめに、やみがありました』 人びとに語りつがれている神話は、いまではおとぎ話だ。子どもでも知っている。どこかのだれかが、わかりやすいように改変したのだろう。シンダルの言葉で書かれていても、読めるはずがないからな。どうして後世に伝える意味があった? いつか必要になるからさ。

  2. hidden rune 【隠された紋章】
    紋章がどの時代から村に匿われていたのか、知るすべはなかろうて。村は焼かれ、守り人らは無惨にもみな殺し。生き残ったのはひとりの少年じゃった。紋章と村の掟を託されて、そりゃ生き地獄よ。十にも満たぬ幼子がの、生と死を司る紋章ソウルイーターの宿主として、のう。三百年の物語を紡いだのじゃ。

  3. childhood 【子ども時代】
    ガキの頃、宝物が山ほどあった。バケツの氷。小さいけれど本物の弓。噛めば噛むほど美味しいパン。暖炉であたためたミルク。親代わりの村人たち。手作りの絵本。羊の毛のセーター。やさしいにおいのふとん。満天の星空。――疑うことを知らなかった。戻りたいとはおもわない。絶望は一度でたくさんだ。

  4. visitors 【来訪者】
    占いのおばばが言ったとおりになっだ。大きな厄いがやってくるって。そして、厄いは輝く星を連れてくる。おじいちゃんは怖い顔をして、なにかを考えていた。おもてが騒がしい。泣き叫ぶ声がきこえる。ぼくはべそをかきながら、じっと耐えた。だけどがまんができなくて、おにいちゃんの手をにぎった。

  5. grandpa 【おじいちゃん】
    おじいちゃん。あのときおじいちゃんが悲しい目でぼくを見たわけを、ぼくはもう、知ってるよ。どんなに恐ろしいことが起こったか、気づかなかったぼくもばかだけど、おじいちゃんはもっともっと、ばかだね。ひとりで罪をかぶろうとしたの? ぼくに恨まれることが罰だとおもったのなら、それはちがう。

  6. plunderer 【略奪者】
    おまえは『それ』を奪って、なにを望む。殺戮か。支配か。あるいは、復讐か。いずれにせよ愚かなこと。欲に溺れた人間に、『それ』が応じるとでも思ったか。失せよ。我ら紋章を護る民は、おまえになど屈しはせぬ。魔女よ。我が身を省みるがよい。おまえもまた、紋章を護る民の末裔ではなかったのか。

  7. genocide 【大虐殺】
    村人を殺したのは、人ならぬ男と、邪眼の男。女も子どもも、まるで虫けらのように斬られ、炎で焼かれた。慈悲などみじんもないようすで、人ならぬ男は笑っていた。邪眼の男は、血塗られた剣を怯えるテッドに向けた。次は、おまえだ……。抑揚なく、言った。次はおまえだ。我が憎悪の根源よ。くくく。

  8. pretty please 【一生のお願い】
    ぼくもつれていって。わたしたちは耳を塞ぐことしかできない。いっしょうのおねがいだよ。ごめんなさい。また必ず会えるから……でかかった言葉をのみこむ。希望を与えるのは残酷すぎるね。神さまはなんてひどい仕打ちをこの子に与えるの。それが運命だとでもいうの。なぜこの子が選ばれたの。ねえ。

  9. beginning 【始まり】
    物事にはすべて始まりと終わりがある。終わりは次の始まりである。無数の始まりと終わりが歴史を築きあげる。大きな流れのなかで、人の存在はあまりにも儚い。それでも次の一歩こそ始まりなのだと、ぼくは小さいテッドの背をおした。物語はまだ終わっていない。ぼくが必ずきみを救う。だから、生きて。

  10. world outside 【外の世界】
    ぼくは世界をしらなかった。知る必要もなかった。村で生まれ、村でおとなになり、村で死ぬはずだったから。どうしてこんなことになったんだろう。どうしてみんな、ぼくをおいていったんだろう。どうしてぼくだけ、こんなめにあうんだろう。だれも教えてくれない。がんばれと言って、ぼくを捨てた。

  11. lost living 【失われた日々】
    過去にはもどれない。時はさかさまに流れない。きのうまでのぼくが失われていく。足跡はとけて消える。だれもぼくのことを記憶しない。おもいださない。ぼくの時はとまったままだ。ぼくは、ぼくのことを忘れていく。そうしてぼくは、完全に世界から消えてなくなる。はやくその時がくるといいのに。

  12. permanent companion 【永遠の命をともに生きる者】
    二本の脚と、うつろな眼。やぶけた靴下、大きい靴。灰色のかばん、鼠色のマント。ブリキの水筒、ひとかけらの岩塩。なつかしい歌、怨みの歌。壊れた感情、ささくれたこころ。しあわせの記憶、ふしあわせの記憶。つまらない知識、くだらない知恵。喰って喰って喰い飽きた魂。弓と矢と、ソウルイーター。

  13. hegira 【逃避行】
    宿命。それがすなわち、おれが生きる理由だ。手短に言うと、な。守り人の掟にしたがう以外、この命に価値などないのだから。おれは、さだめられた任務を遂行するためだけに存在する。どんな任務かって? 聞いてもしょうがないぜ。『あるもの』を持って、ずっと逃げつづけること。な、つまんないだろ。

  14. trials and tribulations 【試練と苦難】
    あなたの歩む道はとても険しく、幾多の困難が待ちうけています。遠く果てしのない旅路となるでしょう。年端もゆかぬあなたが紋章を宿してしまったのは、不幸なできごとでした。それでもあなたは、選ばれたのです。たとえ道を見失っても、星が導いてくれるはず。その足下を照らす光を信じるのです。

  15. sacrifice 【生け贄/犠牲】
    相棒、ソウルイーターは血に餓えている。どれだけ喰らっても喰い足りないという。おれの都合などお構い無しで、魂を捕食しまくる。呆れるほど貪欲なやつ。またひとつ、犠牲者の魂が右手に吸いこまれた。これで何人。数えるのをやめて何年。おまえにもっとも近い魂はおれだ。いずれ贄にするのだろう?

  16. evil guardian 【邪悪なる監視者】
    おまえとひとつになった日から、おれはおまえだ。だからおれにはわかる。おまえの望みも、その悪しき心も。それもまた世界の真実であることも。おまえは冷酷だが、けして嘘をつかない。おまえはおれだ。おれもおまえにだけは、嘘はつけない。飼うか、飼われるか、ちがうのはそこだけだ。

  17. life and death 【生と死】
    死は生によってもたらされる。なのになぜ、生は祝福されるもの、死は忌み嫌われるものなのか。生は死あるからこそ尊いのである。なのになぜ、死を穢れと謗るのか。人だけが歪んでいる。なのになぜ、紋章は人を選ぶのか。なぜ、おれなのか。自問する。おれはなにを為すべきなのか――

  18. one way 【一方向/片道切符】
    旅人の名はひどくありふれたもので、人の記憶を素通りする。歳の頃は十。小さな躯に矢筒を背負い、ぱんぱんに膨れたかばんをたすきがけにして、それが癖なのか、わずかに屈みぎみに歩く。どこから来て、どこへ往くのか――それを知ってどうする? 忘れなさい。次にまた彼と出会うことはないのだから。

  19. stardust 【星屑】
    流星雨の夜だった。巨大な楠木に背を預けて、降る星空をみていた。身を切るような寒さも、どこか他人事のようだった。現実感がまるでないのだ。もしかしたら空腹だったのかもしれない。眠っていないせいかもしれない。ひどく疲れていた。憶えているのはそこまでだ。誰の記憶だろうと、ふと思った。

  20. recollections / memories 【記憶】
    誰の記憶だろうと、ふと思った。ひょっとしてこれは、ソウルイーターの記憶ではないだろうか。地上にまだ人のいなかったころの、はるか昔の光景。紋章に意思があるとしたらの話だ。人が過去のできごとを夢にみるように、紋章もときおり、過去をなつかしむのではないか。どんなに寂しい記憶でも。

  21. immortal 【不死の人】
    喉の渇きで目が覚めた。寝汗がひどい。水筒に口をつけてなまぬるい水をごくりと飲む。もっと飲みたいけれど、わずかしかない水は貴重だ。テッドはいらいらと舌打ちした。宿主が高熱にうなされているのに、ソウルイーターは知らんぷり。おかしな力をくれるのはいいが、つくづく紋章目線だよな。チッ!

  22. archer 【射手】
    村の若い男たちは、危険な森で狩りをした。必要なぶんだけ、動物を犠牲にした。死んだ動物を丁寧に使いきることが供養となる。生きるために殺す、生と死にはそんな側面がある。テッドが武器として弓を持つのは、殺すためであり、殺さないためでもある。それほどまでに生きるということは、むずかしい。

  23. ancient ruins 【古代の遺跡】
    大陸にはいくつかの遺跡がある。発掘がすみ、危険のとりのぞかれたものは一般人でも容易に立ち入れる。だが、多くは人の侵入を拒み、モンスターどもの巣となっている。シンダルの財宝が埋もれていると信じて命を落としたハンターは数知れず。テッドにとっては、邪魔者のこない格好のねぐらだけど。

  24. monster 【モンスター】
    獣とモンスターは、どちらも危険にはかわりないけれど、より厄介なのは後者だ。獣が人を襲う理由はふたつある。食料にするため。身を守るため。理由なく襲ってはこない。だがモンスターは理屈抜きで立ちはだかる。やつらの生態はあまり解明されていない。よその世界からやってきたという話も聞く。

  25. curse 【畜生!】
    女はテッドの姿を認めるやいなや、駆け寄って激しく罵った。おまえね。おまえがあの子を見捨てたのね。この恩知らず。頬を張り飛ばされてテッドはよろめいた。口内にひろがる血の味。おまえが死ねばよかったんだ。畜生。泣き崩れる女をだき抱えて、男が言った。町から出ていけ。疫病神め。のたれ死ね。

  26. disconnectedness 【孤独】
    はじめはみんな手をさしのべる。そりゃそうだ、同情をひくにはもってこいの見かけだもの。ぼくだって、生きるためならば嘘もつく。人の親切を利用する。だんだんうまくやれるようになってきた。引き際というものが大事なんだ。裏切りものと呼ばれるのはしかたがないよ。胸が痛いのはぼくが弱いせいだ。

  27. blind alley 【袋小路】
    後戻りできない、停滞もできない、ならば進むしかない。この旅に終着点はあるんだろうか。いつになったら、ぐっすり眠ることができるんだろう。だれも教えてくれない。導いてくれない。いっそ終わらせてしまおうかとおもった。でもそれは大きな罪だ。断崖まであと一歩のところで、心が荒波に揺れる。

  28. desperation 【自暴自棄】
    断崖のふちに彼は立った。海風がほんのすこし背を押せば、茶番劇は終わり。彼の精神は年老いて、疲弊しきっていた。とうに渇れた涙、失われた声、磨耗した感情。容れ物だけが奇妙に若々しく、彼の人生のひずみを色濃く映していた。灰色の世界に海鳴りが響きわたる。濃い霧に一艘の船が浮かんでいた。

  29. abyss 【奈落】
    少年は墜ちた。いや、堕ちた。霧に沈む深い裂け目に。地獄《アビス》。そこは彼の知った世界ではなく、また、知らぬ世界ともちがっていた。ひとつだけ変わらぬものがあるとしたら、テッドという彼の名前。その名は、復讐のために必要なのだ。もし名を奪われていたら、罠だと気づくこともなかったろう。

  30. misty bottom 【霧の船】
    霧は囚人のこころを投影する幕である。鎖につながれた己の姿に安堵する。他者にゆだねることの心地よさ。ああ、ようやく息ができる。つかの間おもった。なのに安らかな眠りは訪れない。どうして。囚人は自問自答する。簡単なこと。間違っているからだ。霧がささやく。考えるな。そして白い闇が閉ざす。

  31. Grim Reaper 【死神】
    ソウルイーターはその性質のせいでしばしば死神と称される。あながち間違ってもいないとおもうけど、死神がどうして麦を刈るように魂を刈り取るのか知ってるか? 次の種を蒔くためだよ。肉体は滅びて土となり、麦を育む。麦はパンになり、人の糧となる。悪いな、やっぱりソウルイーターは渡せない。

  32. he 【彼】
    出会う前から、彼を見ていた。罰の紋章を継ぎし者、群島解放の先陣となり御旗を掲げる無謀な若者を。彼もまた自分のように、真の紋章に振り回されていた。あの少年を連れてこい。命令されて、戸惑った。彼は応じるだろうか。果たして説得できるだろうか。否定されたら、自分があまりにも惨めで。

  33. ray of hope 【希望の光】
    ひとたび遠ざけることのできた紋章を、みずからの意思でふたたび宿す。人の心の強さと申しましたが、わたしが目届けたのは奇蹟そのものでした。あの子が幼いときから見守ってきたのです。見ていただけと仰いますか。それがどんなにつらい役目だったかおわかりですか。でもね。わたしは嬉しいのです。

  34. sailing ship 【帆船】
    霧が晴れ、テッドは生まれてはじめてほんとうの海を見た。それは空よりももっと蒼く、どんな水源よりもずっと深かった。蒼天にまぶしくきらめく純白の帆。よーそろー。舵取りの声がひびく。ああ、色のある世界だ。戻ってきたんだ。本来在るべき場所に。この日のことを忘れまい。死する時まで絶対に。

  35. current 【流れ】
    高きところから低きところへ、水が下りおちるように、あらゆるものは動いている。歴史もまた然り。流れゆくものである。「いま」はまばたきするまに過ぎ去る。悲しみも喜びも、過去へ流れてゆく。時を刻まぬこの躯ですら、きのうときょうではたしかに違う。特別なものはない。前を向いて、生きよう。

  36. existence 【存在】
    自分が人であること、祝福されて生まれてきたこと、生きてくれと望まれたこと――危うく忘れるところだった。 自己を否定し、苦しみから逃れたつもりで、それが裏切りという大罪であることを認めまいとした。ごめん。おれはもう逃げない。みっともない真似はもう、しない。地に足をつけて、歩くよ。

  37. war 【戦争】
    人の歴史は戦争の歴史である。なんのために人は争うのか。理由を挙げてもはじまらない。神話時代、剣と盾の兄弟が争った。歴史はそこからはじまった。なんのために、とは愚問の極みである。はたして群島諸国は戦争のさなかにあった。その中心に、罰の紋章があった。なるほど。見届けろということか。

  38. stars 【星々】
    歴史が大きく動くとき、星々が集う。天魁星のもとへ。その数百八つ。太陽歴307年、テッドがその生涯においてただ一度だけ、星をかざした年。運命があらかじめさだめられたものなのか、それとも己でつかみとるものなのか、論じても詮ないこと。黙して、彼らを見よ。偽りのない、それが真実である。

  39. stone slab 【石板】
    約束なんていつしたよ。勝手ぬかしてんじゃねえよ。こんなのに名前書かれちゃ、めだつじゃんかよ。あ、いや、力を貸すっていったのは、オレだよ? けどさ、こういうのは困るんだって。はあ、わかりましたよ。今回限りだからな。さっさと恩を返して……ってなんだよその含み笑い。笑うな。ばか。

  40. comrade 【仲間】
    雇い主のすることに口を挟む気はないけれど、これでよく無事でいられたものだ。お人好しは美徳じゃないぞ。スパイも賊も詐欺師も、紛れこむのが簡単すぎて拍子抜けさ。おれなんて猛烈に怪しいぞ。なんで疑わないんだ。頭おかしいんじゃないのか。まあいい。とりあえずおれは、仲間呼ばわりは迷惑だ。

  41. cooperation attack 【協力攻撃】
    よもやこの歳になって、軍事特訓を受けるはめになるとは。いかなる集団にも属さないという俺様ルールが……いや、破ったのはオマエだろというツッコミはなしだ。さておき。なあ、弓部隊の顔ぶれを見てくれ。ガキ、女、お姫様、馬鹿。呼吸なんてあうはずないだろ。無茶苦茶だよ。おれ、もうやめたい。

  42. interference 【干渉】
    馴れ合いはきらいだ。誰とも話をしたくない。おれに構うな。きつく宣言することでその他大勢の反感を買い、留まる理由を保ったまま孤立できると計算した。あのお節介野郎さえいなければ、うまくいったはずなんだ。この船に、真の紋章はひとつでたくさんだ。頼むから干渉しないでくれ。あと少しだけ。

  43. spurn 【(きっぱりとした)拒絶】
    ぼくは獣のきもちがわかる。嘘じゃない。だけど、狩人仲間からは煙たがれた。ホラ吹きの人間嫌いだって。そうかもしれない。獣の声ばかり聞いていたぼくは、もはや必要とされない。だから群れを離れたんだ。先のことなど考えもせずに。そして一匹の獣と会った。寂しい眼をした獣は、ぼくを拒絶した。

  44. furo 【風呂】
    手ぬぐいでテルテル坊主をつくる。湯に沈める。ブクブクブク。潰したら泡がでる。べつに楽しいわけじゃない。暇潰しだ。でかい風呂はのんびりできて、いいもんだ。掃除を請け負う条件に、貸し切りで使わせてもらってる。表には清掃中の札。なんて賢いオレ。泳いでも見られない。ブクブクブク。ゴン!
    「おーい、ちびすけが風呂で気絶してるぞー」

  45. letter 【手紙】
    便箋とつけペンを調達するのは意外と簡単だった。自慢ではないが、作文と口八丁は得意である。ただし、字は汚い。ほっとけ。さて、問題はここからだ。手紙、手紙か。くそ、そんなもん書いたことねえよ。書き出しに挨拶がいるんだろうか。こんにちはでいいのか? いや、夜に読んだらどうする。もしもし、かな。いや、変だ。とりあえずここは後回しだ。本文が重要なんだからな。アルドと、いう、やつが、うっとうしい……うーむ、いまいち。(グシャグシャ、ぽい) ここは本気を示さないといけない部分だ。困窮の訴え……センエツながら弓部隊のアルド氏に関してお話が……だめだだめだ、みんなの前で読まれたら赤っ恥だ。(グシャグシャ、ぽい) はあ、なんで手紙ひとつでこんなに悩まなきゃいけないんだよ。めんどくせー! やーめた、やめた! 手紙なんざ、要はハートだぜ! たぎる心を相手に伝える、それでいいんだ。飾り文句などいるもんか。ほらほらほらほら見えてきたぞ! 深呼吸して、心に描いた言葉を写しとる! 見ていろクソッタレ馬縛り野郎、俺様の本気を思い知れ! おまえの悪事、ぜんぶチクってやるからな! 邪悪なるテッド様の言うこと聞かなかったことを後悔するがいい……フハハハハ!

    目安箱に、愉快な手紙が入っていました。しばらく楽しめそうです。

  46. confession 【懺悔】
    用があったのは図書室だ。死角にいたアイツと目があって、うっかり向かいの部屋に入ってしまった。薄暗いから、倉庫かとおもった。いま出るわけにもいかないし、しばらく身をひそめていようと椅子に腰を下ろしたのが運のつき。「くそっ……!」ずぶ濡れで悪態をつくオレ。心配して待っていたアイツ。

  47. fourth deck 【第四甲板】
    ひとりになれる場所をあてがわれたのは幸いだったのか、それとも。雑魚寝部屋でよかったのにと、上の人に責任転嫁してみる。倉庫とか船底とか、もっとふさわしい場所があったろう。嫌みかな。だろうな。くそ、気が滅入る。はす向かいに医者がいて、両隣は世話好きときた。おまけに見張りまでいやがる。

  48. steamed bread 【まんじゅう】
    小麦粉と酵母を練って蒸して、というのは昔からあったけれど、中に具を包み込むというのは新しいな。なるほど、こりゃうまい。おかずと饅頭をいっしょに食える。冷めても不味くならないのもいい。で、このたびの任務を確認していいか。饅頭の具を狩る、だったか。なあ、それって戦争と関係あんのか?

  49. horizon 【水平線】
    水平線に陽が昇り、陽が沈む。いつもの平坦な繰り返し。見飽きたはずの光景。なのに、美しいと感じるのはなぜだろう。海だから? そうかもしれない。ちがうかもしれない。世界はどこも変わってはいない。変わったのは自分だ。世界は美しい。気づくのが遅すぎただけだ。けれど、手遅れじゃない。

  50. some day 【いつか】
    幾度も失敗した。挫けて自暴自棄になった。悪いこともやった。しかたがないと眼を背けた。自分が嫌いだった。死んでしまえとおもった。みじめだった。強くなんかなれなかった。消えてしまいたかった。すべて否定したかった。つらかった。運命を憎んだ。悪魔になろうとおもった。地獄だった。無駄に時を経た。おれはもう、なにも考えられなくて、最悪の選択をした。本来ならばそこで終わり。後ろめたさも忘れて、生きた屍になるはずだった。
    彼はあした、死ぬかもしれない。それが運命ならば。なのに微笑むんだ。おれは言った。なあ、おれもいつか、おまえのような生きかたができるかな。

  51. pride 【自尊心】
    どうしろというのか。あるがままを受け入れろ。己を尊重しろ。ハッ! そんなの無理だ。おまえにはプライドがないのか、だって。そんなものが腹の足しになるかよ。どうせおれは紋章の傀儡ですよ。価値のない人間さ。おれは、そんなおれが大ッ嫌いなんだ。つまらないことを認めさせるんじゃねえ!

  52. last battle 【最終決戦】
    ここまできたら、あとには退けない。罰の紋章が目覚める――予感。彼は怖くないのだろうか。死を確信してなお、穏やかな笑み。強いんだな、あんた。強いけど、悲しい。みんなが彼の死を悲しむ。どうしてもやるというのか。だったら、おれは見届ける。強くなりたい。昔の約束だ。けして負けないこと。

  53. judgment 【裁き】
    生ずるは光 死するは闇。 たどる指先の聲なき慟哭を ゆきずりに聞くにはおぞましすぎて。 骸は土へ 魂は冥府へ。 いずれ再生を待つものなり。 光の子らを暗き夜が覆う大地。 我、生と死を司るもの 命を刈り取り土を均すもの。 はじめもいまもとこしえに 人の世のつづくかぎり。 裁きの刻 いまだ遠く。

  54. new beginning 【新たな始まり】
    ひとつの戦いが終わった。海は穏やかになるだろうか。人々の願いはかなうのだろうか。海に暮らす者たちは、男も女も強い。多くのものを喪ってもへこたれない。陽気なやつらだから。ここが始まりなのだ。群島諸国連合のじゃじゃ馬っぷりをもっと見ていたいけれど、時間切れだな。バイバイ。忘れないよ。

  55. together 【一緒に】
    脅して聞く相手じゃないとわかったから、ほんとうのことを伝えた。おれは口下手だし、どうせ信じてくれないだろうとおもったけど、あいつは真剣に聞いてくれた。そして言ったよ。「テッドくんはいままでたったひとりで頑張ってきたんだ。でも、もうひとりにはさせない。ずっと一緒にいる。一生の約束」

  56. regret 【後悔/哀悼】
    大切な人を喪うたび、気が狂うほど後悔した。どこに隙があったのか。なにを見落としたのか。過去はやり直せないってのにな。考える時間だけはあり余っている。考えたさ。宿主は運命から逃れられない。それこそ右腕でも斬り落とさないかぎり。おれは幸せなど望まない。もう誰も連れていかせるものか。

  57. Requiem 【レクイエム/鎮魂曲】
    弔いの歌にまねかれて 烏が山からおりてくる 今宵も戦火あかあかと。 嗚咽の鐘をききつけて 黒衣の使者がおりてくる 冥府へ死者を連れ去りに。 星なき闇夜の天蓋に 黒く濡れた烏の群れ。 夜がますます濃く深く。 魂むさぼり喰うのはだあれ。 あなたのおうちはどこかしら。 地獄 それともその子の右手。

  58. memento 【形見/記憶】
    海に散骨できたらよかったのだけれど。引き返すのは信念に反する。彼の死んだ森に骸を埋めた。ちゃんと弔ってやれなくて、ごめんな。南へ向かう旅人に、翡翠のピアスを託した。オベルの王に届けてくれと。永年の相棒だった木の弓を燃やした。これは送り火。おまえの形見は未来へ連れていく。いいだろ。

  59. promise 【約束】
    独りはこんなに寂しいものだったろうか。アルドのいない心細さに、ブルッとふるえる。自業自得だ。おれのせいじゃない。やめよう、今更。あいつは自分で契約書にサインしたんだ。ぼくがテッドくんの力になるって、ばかな約束をして、ほんとうにそうなっちまった。約束なんて迂闊にするもんじゃないな。

  60. true gems 【真なる宝石たち】
    はるか昔、神話の時代、剣と盾が争った。27の宝石が地に舞い降りた物語。それらは世界をかたちづくる27の真実である。テッドは思う。紋章をめぐる争いの絶えぬのは何のため。それが「闇」の意図なのか。闇生ずるところに光あり、光なき闇は無である。世界は無に還るのか。それが望みか。本当に?

  61. sorcery 【魔法】
    それもソウルイーターの加護なのか、テッドには魔法使いの素質があった。基本五行の属性魔法を味方につけるたぐいまれなる才能を、見抜いた者も多かった。そのなかのひとり、魔法使いウォーロックは彼を案じてこう言った。大きな力は我が身をも滅ぼす。謙虚なこころこそ真の力。願わくば後悔なきよう。

  62. memory 【思い出】
    だれかが言ったな。記憶はそっけなく、思い出はあったかいものだって。ちがいなどわからないし、興味もなかったから、忘れていた。でもこのごろ、ふと思い出す。そうか、これが思い出ってやつか。たしかにあったかいけど、なんだかしょっぱいな。な、なんだよ。俺様が泣くわけ、ないだろう。ばーか。

  63. smile 【笑み】
    笑ってよ、テッドくん。ぼくは知ってる。ほんとうのきみは、笑顔のまぶしい男の子。悲しいくらいやさしくて、切ないくらい寂しくて。こわがらなくていいよ。抱きしめたいけれど、きっと拒絶するんだろうね。テッドくん、ぼくはね、きみが笑顔になれるのならばこの命をあげてもいいよ。だから笑って。

  64. Genesis 【創世記】
    むかし、太陽暦よりもはるかむかし、シンダル族の栄枯盛衰をさかのぼり、そこよりもずっとむかし、はじまりの男女が恋をしたとき。動きはじめた世界の導き。悲しみも憎しみも喜びも、そこから生まれた。ソウルイーター、おまえはその眼でなにを見た? 膨大な記憶のかけらが、おれの血とまざって滴る。

  65. town 【町】
    ざわざわざわ。夜半を過ぎても喧騒のたえない港町。市場に近い路地裏の宿は、安いかわりに蒸し暑い。開けっ放しの窓に野良猫。同宿のヤモリを眺めながら、浅い眠りに落ちていく。起きたらパンと牛乳を買いにいこうか。午後は少し働こう。短いけれど気ままな暮らし。本を読みたくなるのも、こんな町。

  66. cross-border 【国境】
    地図の線はおなじなのに、隣りあう国が記憶とはちがう。知っている土地なのに、はじめておとずれる国。そこはもうハルモニアではない。黄金の皇帝が治める国。そしてテッドの生まれたところ。帰る気はなかった。なのに足が向いた理由を、テッドは感傷と決めつけた。花を手向けるくらい、いいだろう。

  67. promised land 【約束の地】
    どうやら道に迷った。近づいているのはたしかだが、記憶とは曖昧なものだ。しかたがない。三百年も経っている。風景は変わるもの。寺院をみつけてほっとする。頼めば泊めてくれるだろう。迎えてくれた僧侶は、テッドを見るなり「お待ち申しあげておりました」と言った。不思議な老人だ、とおもった。
    寺院は広く、多くの修行僧が往き来していた。テッドは、盲目の格闘家が黙々と鍛練するのに眼を奪われた。彼は格闘奴隷だったんですよ。ひとりが耳打ちする。自由の身になったのに、奴隷だった頃の習慣なんでしょうねえ。いや、それが唯一の、生きるすべだからだ。奴隷の刻印は、消せはしない。
    格闘家とテッドは、ならんで中庭に座っていた。逞しい身体だ。それに比べて自分のなんと貧弱なこと。わたしはこのとおりめくらですが、あなたが大きな光に包まれているのがわかります。テッドは笑って、気の利いた冗談だと言った。格闘家も笑った。刻を告げる鐘の音が、夕焼け空にとけて消えた。
    寺の暮らしも悪くはない。しかし、なにかに急かされるように旅支度をととのえた。故郷に花を、と思ったけれど、単なる未練のようでもあって、見つからなければそれでいいと決めた。荷物を背負い、寺院を出た。テッドは息をのんだ。どうして気づかなかったのだろう。いちめんに広がる麦の穂。忘れることのできなかった風景。風化で角のとれたこれは、墓石じゃないか。寺院を振り返る。祠だ。まさしくそこに、祠があったのだ。祠は護りつがれた。だれが。なんのために。テッドは駆けた。おじいちゃん! 石につまづき、草原を転げ落ちた。無我夢中だった。帰ってきた。帰ってきたんだ。

  68. Gregminster 【グレッグミンスター】
    さすがは黄金の都。帝都の繁栄は想像をはるかに超えていた。いまやハルモニアと並んで世界の為政者となりし赤月帝国。黒い噂もハルモニアと同様、いや少しはましか。逃亡生活に慣れたせいか、敵陣ともいえるこの街も身を隠す格好の場所に思えてくるから人生とは摩訶不思議。木を隠すならば森の中、さ。白亜の壁に、石畳。市のたつ広場の噴水は子どもたちの遊び場。グレッグミンスターは城壁に囲まれた美しい街、だれもが一度は憧れる黄金の都だ。海が遠いのが、欠点だけどな。それにしても、なんという穏やかさだろう。逃亡者であることも忘れてしまいそうなくらい。こういうのを、平和というのかなあ。

  69. war orphan 【戦災孤児】
    父さんが連れてきた子は戦災孤児で、教育も受けていない。マクドールのお屋敷で犬を拾ったそうだよ。そんなふうに陰口をたたくやつらがいる。ぼくはいいよ。言われるのには慣れてるから。でもテッドが傷つくのはいやだ。だから、悪いやつとは喧嘩をしようとおもう。身分なんて関係ない。友だちだもの。

  70. lie 【嘘】
    嘘を泥で塗り固めたら、テッドという人形になるんだぞ。おれはな、平気で嘘がつけるんだ。とても自然に、口からこぼれるんだ。嘘笑いも嘘泣きも、仮病だって。うそつきは泥棒のはじまりって言うけれど、はじめから泥棒なんだからしょうがない。人の魂を盗み喰いして逃げ回る。醜悪だな。関わンなよ。

  71. freeloader 【居候】
    居候がひとり、ふたり、さんにん、よにん。変な家。三人めまではまあいい。下男と部下ふたり、ね。四人めがな、お坊っちゃんの親友となるべく掃き溜めから拾われてきたゴミ、いやガキ、つまりオレのことだが、あの親はなにを考えているのだろう。恩人だけれど、意味不明。親友になれそうな将軍様だよ。

  72. special stew 【グレミオ特製シチュー】
    マクドール邸には、とてもいいことととても悪いことがひとつずつある。いいことは言うまでもなく、グレミオさんの作るシチューだ。こいつを食ってしまったらもう、この屋敷からは逃れられないのさ。悪いことは我が身をもって確かめろ。ヒントは二日めのシチューだ。クレオさんがリンゴを……ごほん。お嫁にいくつもりならアレはまずいと……おっと誰か来たようだ。

  73. forbidden game 【禁じられた遊び】
    駆け引きだよ。退屈しのぎのお遊び。本気であいつを餌食にするわけがないだろ。そう、親友ごっこさ。むこうは将軍家のお坊ちゃん、こちとら不老の浮浪者(はぐれもの)、真面目になるだけばからしい。魚釣りやキャンプや冒険が愉しいから、ホントにそれだけだよ。親友ヅラしてれば飯も食えるってな。

  74. best friend 【親友】
    あいつもおれも、親友はおろか、友だちすらいなかった。将軍の息子という理由だけで誘拐されたり、特別視されたり。それで心を閉ざしてしまった。なんだか、まるっきり他人事とも思えなくてな。親友ごっこを思いついたのはそのためだよ。うまくやれば、うそも本当になる。裏切りにはちがいないけれど。

  75. impulse 【衝動】
    運命の導きだったと、いまなら言える。ざわめく波のような抑えきれぬ衝動を、ほかの理由で説明できないから。己の落ち度だと認めるのが怖いのか。ちがう! これは定められた道だ。歯車は止まったりしない。おれの命を賭けてもいい。どうせ歪んだ魂だ。けれど悪魔に売ったりしない。それだけは絶対に。

  76. dragon 【竜】
    口やかましくて、ずけずけものを言うやつで、ぼくをガキ呼ばわりしたけれど、ほんとうはね、嬉しかったんだ。だってさ、アイツ、竜はすごいな、竜騎士すごいなって、バカみたいにはしゃいでさ。案外いいやつなのかもって、おもったよ。ブラックのこと、忘れないでね。ありがとう。さよなら。

  77. fate 【運命/最期】
    少年の姿を認めて、彼女はおもわず眼を伏せた。それが務めと覚悟はしても、心は重苦しく沈む。わたしはあなたのことを、見守ってきました。泣き叫んでいた幼いあなた、人の心の強さを見せてくれたあなた、星の定めを乗りこえたあなた、そしてあなたはここへたどり着いた。最期の役目が待っています。

  78. teleport on the fly 【空中テレポート】
    気にくわないな。隠しても匂いでわかるんだよ。レックナートさまのようすがおかしいのは、おまえが現れてからだよな? フン、いけすかない顔をしてる。つまりはこの、偽装した老いぼれが元凶なわけだ。いたずらはするなとのお言いつけだけどね。癪に障るぶんだけはきっちりとお返しさせてもらうよ。

    わ、わわわわわ、わーっ! くそ、やりやがったな、あのガキ!

  79. path of destruction 【破滅への道】
    故郷だった場所で、テッドは信じがたいものを見た。粗末な祠のあったところに、ぽっかりと開いた洞窟の入り口。そこに僧侶がいた。テッドを待っていたかのように。あなたはまさしくこの地にて、紋章との縁を結んだ方。紋章が遠き旅から戻るとき、『門』がふたたび輝くと言い伝えにございます。ですが未だ前兆は見えませぬ。いましばらく先のこととなるやも。わたしの務めは『門』のむこうへ、星を束ねるお方をお送りすること。そこには試練がございます。破滅への道がございます。大きな苦しみがございます。必ずや打ち勝つと、信じて待つのもわたしの務め。あなたの往かれる道もまた、破滅につながっているかもしれぬ。いいえ、生あるもの、最期はすべて滅するのですから、不幸などではありません。それでもどうかお気をつけて。あなた様にお会いできた縁に感謝いたします。結ばれた縁(えにし)はけして切れませぬ。離ればなれになっても、響きあうものです。お忘れなきよう……。

  80. unquiet 【不安/不穏】
    反乱勢力の地下活動は公にはされないが、その存在を認めるのは容易いことだった。いや、グレッグミンスターでは多くの市民がそれを知っていた。けれども彼らはけして関与しない。帝都の暮らしを犠牲にするのをよしとしないからだ。腐敗した官僚でも、いないよりはまし。苦いものをテッドは飲みこんだ。

  81. last resort 【最後の手段】
    テッドには一生が何度もあるんだね、と親友が口をとがらせた。あちゃー。そうとう怒ってるな、これは。何度もないけどいっぱいあるんだよ。口答えはせず、苦笑いでごまかす。なあなあ、機嫌なおしてくれよ、一生のお願いだからさ……あっ。「また言った! テッドなんてもう知らない!」

  82. under watch 【監視下】
    百五十年ほど前、霧の船と出会ったのは偶然ではない。導者はテッドを監視し、堕ちてくるタイミングを計算した。つまりはどこへ逃げても無駄だということだ。敵はおそらく魔女だけではない。真の紋章を欲しがるやからは他にもいる。異世界にもだ。何者かの視線、忍び寄る影、いいしれぬ不安、そして――

  83. predicament 【窮地】
    襲いくる激しい目眩。宮廷魔術師ウィンディ。ウィンディ――あのときの女魔法使い! テッドのなかで、なにかが弾けた。ふるえる唇から声が漏れる。ソウル、イーター。こいつらを、喰らえ。髪の毛が逆立つ。魂切る詠唱。「おやめ!」 限界まで膨らんだ闇の光が、謁見の間をドロリとおおいつくす。

  84. cloudburst 【どしゃ降り】
    破壊的な衝撃のあとはよく覚えていない。どうやって城から出たのかもわからない。追っ手の怒号がきこえる。真っ暗な路地で、テッドは荒く呼吸した。意識がぶっ飛びそうだ。がむしゃらに叩きつけた闇の力は、彼の身体をも深く傷つけていた。血と雨でずぶ濡れになりながら、ただ帰ることだけを考えた。

  85. return home 【お家へ帰ろう】
    ただいま、おじいちゃん! ああ、お腹へった。ねえねえ、おじいちゃん、ぼく今日ね、女王蟻のお化けを倒したんだよ。危なかったけど、みんなを守らなきゃっておもったんだ。おじいちゃん? どうして怖いかおをするの。怒ってるの。ぼくが悪い子だから。おじいちゃん、いやだ、行かないで。ひとりにしないで。おじいちゃん、寒いよ、すごく寒いよ。痛い。たすけて。おじいちゃん。おじいちゃん。おじいちゃ…………。

    「……帰らなきゃ」 テッドは壁に手をついて、よろめきながら歩きはじめた。足が泥に埋もれたように重い。一歩を踏み出すごとに走る激痛に耐え、きつく唇を噛みしめて、進んだ。氷のような雨がばたばたと身体を打つ。帰るんだ。死んでたまるか。おれは帰る。あの家に、帰る。みんなが待っている。

  86. wounded 【負傷者】
    声にならない悲鳴が、喉を突いた。悪夢のようだった。開かれた扉から吹きつける雨と風。エントランスに流れる、真っ赤な血。死んだように動かなかったテッドが、わずかに呻いて眼をあけた。「……ただ、い、ま……」 たしかにそう言った。ぼくは泣いていたかもしれない。親友を喪うと思ったのだ。

  87. last ditch 【土壇場】
    死に物狂いで助けを求めた。命が惜しかったのではない。すべては紋章のため。テッドは無謀な賭けを思いついた。祖父が土壇場でそうしたように。怪我からくる高熱にうなされながら、心で話しかける。ソウルイーター、おれはもう、約束を守れそうにない。そのかわり、提案がある。受け入れてくれるよな。

  88. inheritance 【継承】
    それは荘厳な儀式のようでした。このときわたしは、星見の魔術師から賜ったことばをおもいだしたのです。坊っちゃんのためにわたしはもっと強くならねば。少年たちは互いの右手を重ね合わせました。汝、ソウルイーター、生と死を司るものよ。我よりいで、この者に力を与えよ。わたしは息を呑みました。美しくも禍々しい光でした。それでもなぜか、安らぎを感じさせる光でした。真の紋章だ。直感でそうおもいました。一瞬のできごと。テッドくんは力を失ったかのように崩れ落ち、坊っちゃんが支えました。悲しい息づかいがきこえました。やがて彼はしゃくりあげながら、言いました。おまえを不幸にする。

  89. salvation 【救済/贖い】
    おれを恨んでくれていい。こうするしか、なかった。痛みに喘ぎながら、懇願するのでした。坊っちゃんは静かにうなずき、言いました。わかった。テッドくんの表情が安堵で満たされました。彼は永い苦しみから救われたのでした。これで、ぐっすり眠れる……。死を予感しているかのような微笑みでした。

  90. decoy 【囮】
    なんという悲壮な決意なのだろう。わたしは彼の想いを承諾し、坊っちゃんを裏口へうながした。「心配するな。おれも逃げきってみせるさ」 いつもどおりの軽口が最後。あれは嘘だ。悲しい嘘だ。テッドくん、ごめんなさい。ふたりを外にだして鍵をかけ、グレミオは振り返った。帰ってきます。この家に。

  91. traitor 【反逆者】
    解放運動が厳しく弾圧されるようになったのは、皇帝の首を狙ったとされる一味の少年が捕らえられたことがきっかけだ。すべて白状したらしい。こうなれば連中を反逆者と断定できる。猛烈に腑に落ちないけどな。こいつは罠だ。テオ将軍を陥れるためか。坊っちゃん、無事でいてくれ。おれが馬鹿だった。

  92. dungeon 【地下牢】
    雨に煙るグレッグミンスターの街で、もう二度と陽の光を見ることはないだろうとおもった。罰を受けるのはおれだけでいい。怒り狂って、なぶり殺せばいい。なにを考えている、ウィンディ。死ぬ覚悟はとっくにできているぞ。かび臭い地下牢に閉じこめて、兵士たちに凌辱を命じ、それで満足するおまえか?

  93. flash point 【火種/一触即発】
    マクドールの坊っちゃんを匿った雨の夜、宿屋のマリーは大きな決断をした。謀叛人と呼ばれるかもしれないわね。ほうきを動かしながら苦笑い。ええ、おかしいのは帝国のほう。バレなけりゃ悪事もし放題。ふん、民衆もなめられたものだねえ。くすぶっていた藁がそろそろ燃えあがるようだよ。さて、私も。

  94. end 【終わり/限界】
    裁判を待つこともなく、咎人の処罰が兵士たちに伝えられた。任を解かれた若い兵士はほっとしたが、喜ぶ気にもなれなかった。気楽なソニエール勤めに戻れるというのに、後味の悪さといったら。処刑だってよ。まだ子どもだぜ? 助命嘆願書で城が埋もれちまうぞ。クレイズ隊長の立腹ぶりを見るかぎり、恩赦はあり得ないだろう。国家転覆を狙った罪はそれだけ重い。けど、ねえ。可哀想に。おっと、同情は危ない。上級兵士のなかには怒り狂っている面々も多い。うかつなことを口にして、睨まれたら面倒だ。処刑見物をうきうき待ってる官僚だっているからな。みんな結局、残酷なことが好きなんだよ。

  95. creature 【支配される人】
    強い反逆思想の持ち主で、刺客として送り込まれた少年は、磔刑に処され獄死。仲間とみなされる少年は反乱軍の二代目リーダーを拝命した模様。茶番劇の第一幕、終わり。愉しいか、ウィンディ? どなた様もお手にハンケチを、ってか。どうせなら筋書きどおりに反逆者をぶっ殺しておくべきだったな。おまえはもっと、復讐に執念を捧げた女だと思っていたよ。目的のための手段じゃなかったのか? 導者のほうがまだましだな。手段に酔いしれて、目的を見失って、はじめておまえを哀れだと思ったよ。おれとおまえは似ているのかもしれない。それを認めるのがいやだから、反目しあうんだろうな。支配の紋章でおれを操って、仮に目的を成し遂げたとしても、おまえはきっと満足しない。それどころか、飢えはますます抑えきれなくなる。傀儡なんかに哀れまれたと知って、な。おれは、自由にならない命など要らない。おまえも同じだろ。だから、おれが裁ち切ってやる。ふたつの命。さあ、第二幕だ。

  96. dark 【闇】
    原初の「やみ」、寂しさで涙を流したという「やみ」。闇は争いなど望んでいなかった。ひとりがただ寂しくて、そばにいてほしかっただけだ。闇が悪だなんて、間違いだ。ほんとうの悪は、欲なんだ。闇はやさしい。闇はいつでもそばにいた。三百年。おまえはそばにいた。なにもいらない。闇に抱かれたい。

  97. consciousness 【正気/意識(があること)】
    この子を覚えているかしら、ユーバー? まさかね。あなたは人間になんか興味がないもの。ふふ、思いだしてごらんなさい。きっと気に入るわ。でもだめよ、わたしのもの。やっと手にいれたんだから。ごあいさつなさい、テッド。ね、すてきなお人形でしょ。気づいた? そう、この子は正気なの。くくく。

  98. destination 【目的地】
    テッドの人生は、逃げ続けるだけの旅であった。いつ終わるともしれぬ果てしのない旅。終わらせることもできたのかもしれないけれど、その選択は裏切りに思えた。どこまで往けばいいのか。どれだけ強くなればいいのか。約束という重い鎖。しかし彼は、自由を奪われてはじめて、旅の目的地に気づいた。

  99. sublunary crystal 【月下の水晶】
    満月の波動を浴び、水晶がいっせいにざわめきはじめた。人の耳には届かぬ鉱物の会話。キタヨ。キタヨ。「やみ」ガキタヨ。そのとき谷から風が去り、動物たちは巣穴に身をひそめた。水はしたたり落ちるのをやめ、木々は重苦しく沈黙した。少年の右手にある「もの」がふるえる。かつての宿主を懐かしみ。

  100. forgiveness 【許し】
    約束したろ? 必ず逃げきってみせるって。ちょっと予定が狂っちまったけどな。それと、わがまま聞いてくれてありがとな。さっすがおれの親友だぜ。することが大胆すぎらあ。でも、成長したな、おまえ。そういう姿、見られると思ってなかったから……嬉しい。ごめん、自分勝手だよな、おれ。自分の都合でおまえを巻き込んで、地獄に突き落として、ひでえよな。親友だったら、絶対にだめだ、そんなの。こいつは言い訳だよ。聞いてくれなくってもいい。あのな、三百年も生きて、おまえがはじめてだったんだ。親友。おもいでだけでいいから、大切にしたかったんだ。幸せになってほしかった。大将軍になって赤月帝国を背負って立つおまえを、風の噂に聞いたらきっと、おれも幸せになるんだろうって……それが精いっぱいだった。希望だった。笑えよ。嘘はもう必要ない。ここはソウルイーターの中だ。おれたち二人きりだ。嘘ついてもしかたない。でも、もうあまり時間がない。ごめんな。もっと、もっともっともっといっぱい話したかった。ずっといっしょにいたかった。大好きだから、守りたかった。二人で旅をしたかった。サラディの冒険、楽しかったな。おまえに出会えて、よかった。ありがとな。これが最後の「一生のお願い」だ。これからおれがすることを、許してほしい。

  101. bereavement 【死別】
    父さん、グレミオ、オデッサ――わずかなあいだに、身近な死を見すぎたぼくは、ソウルイーターを呪った。こんな紋章さえなかったら。宿主に粘着し、見張り、親しい魂を片っ端から喰らう。悪魔だ。それでもぼくは、テッドをどうしても恨むことができなかった。テッドは紋章から逃げたんじゃない。逆。紋章を逃がすために犠牲になることを選んだのだ。それにぼくは、テッドが必死で生き抜いた三百年を少しだけ知っている。きっとぼくは、テッドから紋章を承け継ぐために生まれてきた。さだめられた運命? そうじゃない。ぼくと小さいテッドとの「約束」だ。ぼくたちは三百年前から親友だった。テッド、血がいっぱいでてる。楽に死なせたらいい魂が刈れない。だけどソウルイーター、おまえはテッドに力を貸したじゃないか。それとこれとは別だとでも? どうしよう、血がとまらない。深紅の海。たすけて。お願い、テッドをたすけてください。もう苦しませないで。眠らせて。一生のお願いです。

    そんなかお、するなよ。あーあ、泣き虫め。だいじょうぶ、おれが選んだことなんだから。残酷な苦痛を見せまいと親友が笑う。ぼくも笑おうとして失敗し、大粒の雨。あったかい雨。ぽたぽたぽた。テッドはまた微笑んで、幽かにささやいた。

    おれのぶんも生きろよ。

    親友は呼吸を永遠に止めた。

  102. tutelary 【守護者】
    おまえはおれに気づくことはないかもしれない。だけどおれはおまえを守り続ける。おまえの魂が地上にあるかぎり永遠に。おまえが生と死の循環を巡るときがほんとうのサヨナラだ。ここへ来い、とは言わない。おまえには未来を選択する権利があるから。その未来を自らの手で断ち切ることはするな。おれが幾度も、そうしようと試みたようなことは。約束しよう。おれが傍にいる。

  103. from darkness toward the light 【暗闇から光のほうへ】
    だれかの呼ぶ声がした。たしかに名前を呼んだ。テッド。呼ばれた。なつかしい声。だれ。どこにいるの。なにも見えない。真っ暗だ。いつもの闇だ。幻聴だ。希望なんてない。おれの名前を知っているそいつは、悪魔かなにかだ。利用するために名前を呼ぶんだ。きこえない。眼も、耳も、口もふさいで、息を殺していればいい。そのうちみんな通り過ぎる。(ぼくもつれていってよ) いなくなる。時を止めてそこにとどまることなどできないから。(ひとりにしないでよ) おれは異端者で、疎まれて当然の子どもだった。呪われた手を持っていたから、暗闇に置き去りにされた。(ぼくはどうすれば) 暗闇はおれを憐れんで、どんなときも静かに寄り添った。暗闇だけがやさしかった。(怖いよ) まただ。おれを呼ぶのはだれだ。その声で名前を呼ぶな。惑わせるつもりだな。どんなに耳をふさいでも侵入してくる。テッド。おいで、テッド。うるさい、黙れ。おれはもう、ここで朽ちるからいい。もうとっくに屍だ。見えるだろ? おれの骸。そいつは空っぽさ。あとは土に還るだけ。おれは(いっちゃうの?)魂しか残っちゃいない。餌だよ。喰われるのを、数をかぞえて待ってるところだ。いまさら名前を呼ぶな。土くれに名前なんていらない。なあ、頼むから(一生のお願いだよ)ほっといてくれ。おいで、テッド、おいで。いやだ! もう、いやなんだ! 眠りたいんだよ! 干渉するな! みんな壊れてしまえ、なくなってしまえ、こんな世界なんか……! (おにいちゃん? 迎えにきてくれたの?) おれ、強くなれなかった。なにもかも中途半端で、みじめで、過去を忘れるしか方法がなくて、そんな自分が大嫌いだった。(ぼくは好きだよ) テッドというありふれた名前。呪いのことばのようだったよ。それでも捨てられなかった。未練ってやつか? どうでもいい。 (ぼくのなまえはテッド) 疲れた。そういえば、躯はもうないんだったな。変なの。どうしてこんなに重いんだろう。重いよ。鉛のようだ。それに頭もぼうっとする。名前、呼んでくれてありがとな。おれの名前は、テッドだ。 (ぼくはテッド) 忘れないでほしい。 (つれていってよ) せめてその名だけでも。 (おにいちゃん) 記憶も。約束も。おもいでも。今度こそ連れていってくれ。未来へ。いいだろ、親友。

  104. walk with you 【きみと歩く】
    独りぼっちだと思っていた。さだめられた運命だと信じていた。恨みも呪いも風が連れ去った。ぽつんと、テッドだけが残された。彼のまわりだけ時を止めて。歩こうか。帰ろうか。それとも死のうか。答えはでなくて、結局歩いた。少しだけ早足になった。たまらず走った。走りながら泣いた。きみと泣いた。

  105. portrait 【肖像画】
    これは、生前の彼を坊っちゃんが描いたものです。テッドくんの遺品はなにもありませんでしたから、そのかわり。いつまでもここが帰る場所であるように、もとのままにしてあるんです。わたしが元気なあいだは、守っていきたいとおもっています。ね、いい笑顔でしょう? よく笑う子だったんですよ。

  106. white petunia 【あなたといると心が安らぐ】
    戸は木の板と釘でふさがれ、窓硝子は割られていた。凍りつく息を透かして見た家には、ほんとうになにもなかった。わずかな荷物は帝国軍が押収したのだろう。なにかひとつでもと思ったのだけれど、願いはかなわなかった。ふと、靴底が硬いものを踏んだ。陶器のかけらだ。その模様に覚えがあった。青い釉薬の重なりが、海のようでキレイだろ。そんなことを言っていた。海は見たことがないけれど、こういう色なのだろうと想像した。かけらを拾い、ポケットに入れた。

    植木鉢にかけらを埋めた。そうするとまるでお墓のようだった。植えるなら、花将軍の屋敷で見た、純白の花がいい。花屋を回ってみたけれど、あれは夏の花だからないと言われた。とぼとぼと帰る道すがら、かの屋敷に立ち寄ってみた。あった。花はつけていないけれど、これだ。あるじは快く譲ってくれた。この花は強いんですよ。長い冬をひたすら耐えて、たくさんの花を咲かせます。まるでテッドのようだと思った。

    春が過ぎ、夏がきて、植木鉢からあふれるように純白の花が咲いた。宿屋の娘が水をあげてくれる。そのころの彼は、罪悪感と眠れぬ夜に苦しんでいた。テーブルに置かれた花を目にするたび、心が千々に乱れた。夏が過ぎ、秋がきた。繰り返しの冬にも花は枯れなかった。エリが言った。強い花ですね。わたし、このお花だいすきです。悲しいことがあっても、不思議に気持ちがやわらぐの。ペチュニアというお花なんですって。マクドールさん、わたし、花言葉を本で調べました。あのね――


    テッドの墓ですか。ええ、いまでもあの小さい宿屋の、陽だまりの窓辺で咲いていますよ。

  107. continuous 【絶え間なく】
    承け継いだのは紋章だけでない。かつてそれを身に宿した人々の魂も共に。ぼくの命は過去とつながり、未来へむかう。歴史を記すのが書物なら、歴史を編みあげるのがこの一本の糸だ。二十七の糸の織る錦は、天の星の羽衣だ。「やみ」はもう寂しくない。姿をかえた涙は青く蒼く、「ひかり」遊ぶ海。

  108. chronicle 【年代記】
    彼らの話をしよう。夜は長いからのう。もっと火のそばへ寄りなさい。炎は心をあたためる。眠ってもよいのだよ。わたしは語りたいからそうするだけだ。語りつづけるのがわたしの役目でな。おや、やっぱり退屈だったかい。やれやれ、いっちまったよ。兎の仔よ、達者でな。夜があけたら、もう会うまい。

ツイッター(@rufusong)で挑戦した108題です。
自己ルールとして「辞書をひかないこと」「公式で不確定な名前は使わないこと(例:ティル、根性丸など)」「ツイート(つぶやき)であること」「モバイルからつぶやくこと」をあらかじめ決めておきました。

2014-02-03