道があるからと、安易に進んではだめだ。
地図に載っているそれはキャラバン隊が拓いた道かもしれない。彼らは動物を使い、多くの荷を運ぶことができる。鞄ひとつしか持たない旅人とはちがうんだ。
いいか、ルーファス。生きるのにもっとも必要なものはなんだ? そうだ、水だ。わかってるじゃねえか。
水を得られる道を往くんだよ。そいつは獣道かもしれない。頭の上まで薮でおおわれていても、倒木で遮られていても、乗り越えていくんだ。猛獣に遭ったら? 闘えよ。なんのために武器を持っている?
水の音に耳をとぎすませ。それさえあれば、歩きつづけられる。生きられる。そうやっておれは生きてきた。
(三百年のあいだ)
テッドが歩くはずだった道を、ぼくがいま、歩いている。
あとどれくらい、と考えるのはとうの昔に、やめた。ぼくの生まれ育った街、グレッグミンスターはもう、ぼくの知っているふるさとではないだろう。それだけの時がたった。時は川のように流れている。立ちどまっているのは、ぼくだけだ。だからその代償に、ぼくは、歩く。
水の音とともに。
テッドが守ってきた紋章とともに。
ぼくは、歩く。
生きたい。まだ終わらせられない。まだその刻じゃない。終わらせてはいけない。そうだろ、テッド?
友は返事をしないけれど、きっと見守ってくれている。
テッドが命まで賭けた一生のお願いを、さいごまで聞き届けるのが親友というものだ。いまさら照れるなよ。先に親友といったのはおまえだぞ。ほんの冗談のつもりだったのかもしれないけれど。
親友だよな。いまでも。
だから、お願いをかなえたら、ぼくのお願いもきいてほしい。
もういちど会いたい。
お別れのことばは、なかったことにしてくれ。
いつになるかわからないけれど。
問題ない。時はもう、ぼくたちを阻めない。
テッド。
異境の水辺で、待っていて。
初出 2012-05-10 再掲 2012-10-26