ノエルはほっとため息をついた。
「鉄人がそういうのを、まってた」
鉄人の目尻がきゅんとつりあがった。
「まってただぁ?」
「銀町先生は、鉄人の判断で決めろっていったじゃない」
「そうだけど」
釈然としない様子である。
「ぼくにできること、いまひらめいた。こんなに簡単なクイズ、どうしてわからなかったんだろ」
ノエルは鉄人をじっと見て言った。「鉄人を信頼すること」
「なんだよ、それ」
「鉄人がどういう結論を選んでも、ぼくはそれを尊重しろって、銀町先生はいいたかったんだ」
鉄人はぼりぼりと頭を掻いた。
「そうかなあ」
「そうだよ」
「でも、ノエル、おまえ……この島で」
急に歯切れが悪くなり、鉄人はひとつ咳払いをした。
「……この島で、終わらせるつもりじゃなかったのか」
「さっきまではね」
「さっきまではって」
「もう無効」
ノエルの決意は固く、それでいて凪いだ海のように穏やかだった。
「島でできることは、もうなにもない」
ちょっぴり笑ってつけ足す。「でも、無駄じゃなかったよ」
鉄人はなにか言いかけたが、うつむいて、また顔をあげた。
「気を抜くのはまだ早いぞ、ノエル」
引き締まった表情。
「先生のことだ。こんな大がかりなトリックを準備するくらいだから、ほかになんか企んでなきゃおかしい。ヘンだと思ってたんだよ。おれたちのこと、もっと徹底的に隔離してもいいはずだしな。バレる危険性が高くて、ピンチになっても手出しできない無人島なんかじゃなくてさ。なんか、いやな予感がすんな。おまえ、どう思う」
目にいつもの光が宿っている。
すなわち、麻雀牌に向きあうときの鉄人だ。
手の内にある牌と、他人の小出しにする情報を照らしあわせて先行きを推理し、策を練る。
ノエルも緊張した面持ちで言った。
「帰るべきだね。苦戦してるかもしれないよ」
「だろうな」
鉄人はひとつうなずいて、踵を返した。
「どうせ父島あたりにヘリを待機させてるんだろうが。その気になったらいつでもどうぞ、って具合によ。よし、思い立ったら即実行。いくぞ」
「オッケイ」
ヤギにすら負けるくせにひとたび思いこんだら鉄砲玉である。樹花のいる広場めがけて、鉄人とノエルはころげるように猛ダッシュしていった。
2006-07-05
