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星が降ってくる

もうひとつのインビジブル・ハンド #5/遙兵
はーちゃんお誕生日SSです
イスラ・イナビターダ無人島エンディング7半

「はあ、はあ……」
 走ってもいないのに、動悸が激しい。胸の痛みは、心拍数のせいだけではないかもしれないけれど。
 広場の端まで来るとランタンの明かりも届かない。そこでようやく足を止め、浅い呼吸を繰り返す。
 激昂して寝床を飛び出してきたのはいいが、ひんやりとした夜気に触れても怒りはおさまらなかった。悔しいやら悲しいやら情けないやら、さまざまな感情がブワッと一気に噴出して、はち切れそうだ。
「くそったれ!」
 遙兵は足下の草をキックでめちゃめちゃに引きちぎった。八つ当たりで気が済むというものでもないが、他にはけ口が見つからないのだからしょうがない。子どものころ、叱られた腹いせに祖父の盆栽を片っ端からひっくり返したことがあるが、あれと似たたぐいの狼藉である。罪のない植物に、ナンマンダブ。
 血の気が上りやすいのは、遺伝だ。DNAだ(たぶん)。根に持つよりはよっぽど美徳だと思っているが、言わないでおこう。
 なにはともあれ、当人を蹴り飛ばさなかった己の自制心は見事なものだった。一発喰らわしてやってもそれはそれでスカッとしただろうが、そのせいで自分が非難されるのは願い下げだ。逃げ場もないこんな孤島で、ひとり悪者役を買ってもいいことなどひとつもない。
 だが鉄人のことだけはどうしても許せなかった。ぐずぐずと煮え切らない態度は、まるで遙兵を軽んじているかのように思えたから。「ごめん」というさも惨めったらしい言葉も、ノエルや燕の同情を引こうとするずるがしこい手口のような気がして、本気でむかついた。
 他愛ない喧嘩で終われるうちは、まだいい。まとめて反省室に放りこまれて強制終了。しかし今回ばかりはわけが違う。
 意地でも和解してたまるものか。子どもっぽいと笑うならば笑え。非は絶対、あっちにあるんだから。あの回らない口から本心を引きずり出すまでは、譲歩などあり得ない。
 友情に修復困難な亀裂が入ったのを実感した瞬間、目頭が熱くなって慌てて空を仰いだ。
 ぼやけた視界に映ったのは、満天の星。
 都会ではけっして望むことのできない、それはまさしく煌めきの饗宴だった。
 だが荒む心は、美しいものを認識してくれない。
 こんなにも感動的な光景なのに、遙兵はただ、ひとりぼっちを痛感しただけ。
 暗闇にぽつんと立っている自分が道化師のようで。孤独で。
 いや――孤独なのは、ずっと以前からだ。
 学園では、自分はたしかに周囲から浮いた存在だった。高等選抜を終えたばかりだというのに次の受験のことしか頭にない同級生たちにうんざりしていたのは本当だ。しかし超進学校の誉れ高い牡鈴学園においては、それがあたりまえ。まだ一年生だからと暢気に構えている遙兵のほうが少数派なのだと、いくら楽天家でも気づかずにはいられない。
 落第一歩手前の成績はキープできているのだからそう卑屈になることもないのだろうが、置いてけぼりにされていると感じるのはしょっちゅうだ。進級すれば周囲との温度差はますますひろがっていくのだろう。単なるひがみだとわかっていても、学園に在籍している以上、危機感は波のように襲ってくる。いつか自分だけ周回遅れになるんじゃないかと考えて、怖くなる。
 学校生活は嫌いではない。部活で身体を動かすのも楽しい。親元を離れて寮で生活することも、遙兵にとっては貴重な経験だ。
 先生も親も、マイペースが悪いなどとひとことも言っていない。なのにまとわりつくこの焦燥感は、なんだ。
 『おまえは知らなくていい』
 それを突きつけられることが、なによりも恐ろしい。
 ああ、そうか。これもおそらくは、そういうことなのだ。ほんとうは鉄人とノエル、それから燕が島に連れてこられる予定だった。自分はたまたま居合わせたがためについでに数に入れられた、グリコのおまけ。いや、包装紙程度かも。
 根拠ならばある。三人は今回の騒動に関するなんらかの事情を知っている。現に、自分には理解できない会話を、繰り返している。警察だの政府だの首相官邸だの。そんなテレビドラマのような単語が一介の高校生と結びつくなんて、尋常じゃない。しかも、三人が三人ともその件を部外者に説明する気はさらさらないらしく。
 どうぞどうぞ、仲良く三人でいつまでもやってろ。
 鉄人とノエルと燕。学年で一番と二番と三番。
 おれ。学年で下から――いや、それはともかく。
 あまりにもわかりやすすぎるので、ちょっと笑ってしまった。
 滑稽だ。はなから遙兵などお呼びではなかったのだ。
 笑いながら、顔をごしごし擦った。
 一番とか落ちこぼれとか、そういうことを気にするなんて、ほんとうにどうかしてる。自分らしくない。成績なんか関係なしに、みんな友だちだったじゃないか。麻雀をしたりマクドに食いに行ったり連れションしたり。まあ、この場合、燕は置いといてだな。
 そう、友だちだった。中でも鉄人は、高等部にあがって最初の友だちだった。
 あれは、春。ルームメイトが噂の帰国子女、弓ノ間鉄人になった日のこと。
 全国模試トップがどれほどの御仁かと身構えてみれば、空気を全く読まない、協調性を著しく欠いた変人で、おまけにチビで。初対面の挨拶が「ムーチョ・グスト」。スペイン語だぜ? あのくぐもった不機嫌そうな声で。「このたびはご愁傷様です」というときの声色で。お通夜かってーの。
 つかみ所がないルームメイトは案の定というかなんというか、初日から寮の先輩たちに睨まれてしまった。新参者にとっての重要ポイント、愛想笑いを徹底的に怠るからだ。どうやら、ご機嫌伺いも処世術のうちと教わってこなかったらしい。商売人の血が流れている遙兵にとってはいいとばっちりだった。
 チビのくせにおっそろしく可愛くない。だいたいにして、表情がない。にやりとしながら、目が笑っていないのだ。あれはちょっと怖い。
 庇護欲をかき立てるひ弱ではかなげな外見に加え、成績が飛び抜けて優れているものだから、中等部の女子がファンクラブを結成する始末だ(プリンス・ファジーって呼ばれてたらしいぜ、けっ)。
 しかし鉄人を見かけで判断すると痛い目に遭う。気をつけたまえよ、女の子。
 薄ぼんやりでいつも怠そうで、いかにも人畜無害な感じなのに、ぼそりと、だが辛辣な皮肉を口にして、すべてを台無しにする。ある種の特殊技能である。これが強烈も強烈、不意を突かれたら痛いどころの騒ぎではない。
 あの悪癖のせいでだいぶ損をしていると思うのだが、本人は正そうともしない。
 そういえば、はじめてぶん殴ったのも、あいつがあんなことを言ったからだ。
 ――なんにも知らないくせに。
 思い出したらまたぐらぐら煮えたってきた。やっぱりボコっておけばよかったと後悔する。そうしたら、いつかのように、重い口を開いてくれたかもしれない。
 腹を割って話をするまでが最大の難関で、それを越したら、変人だけどあんがいいいやつなのだ。夏休み前、鉄人が寮を出ると言いだしたときに、例によって理由語らずだったものだから一悶着あったけれど、中立大好きでつねに冷静沈着な時雨努が双方を取り持ってその場は解決し(やつには法曹界が向いていると思う、絶対)、以後も交友は続いた。そしていつの間にか、鉄人とはいちばんの友だちと呼べる間柄になっていた。縁というのはじつに摩訶不思議なものだ。
 ろくでもない性格なのはいやというほど知っている。だから、どんなろくでもない話でも、聞く覚悟ができていた。それなのに、鉄人は――裏切った。
「テツのばかやろう、ウンコ食ってろ」
 口汚く罵るのとはうらはらに、怒りは猛烈な寂しさへとすり替わっていた。
 遙兵の必死の訴えも聞かず、鉄人は心を閉ざしてしまった。
 俯いて、ごめんと。ただひと言。
 あれがが弓ノ間鉄人の答えなのだ。彼自身が導いた結論であるならば尊重するしかあるまい。
 曖昧なようでいて、その実どんな言葉よりも雄弁な拒絶。それを受け入れるのも友人としてのつとめなのだろう。
 もう、終わりかな。
 ため息と間違うほどに静かに息を吐く。遙兵は想像以上に傷ついている己に狼狽した。
 友をなくすことがこれほどつらいなんて、反則だ。鉄人はどう思っているのだろう。自分で決定打を放ったことじたい、わかっているのだろうか。
 イライラする。いっそ死別ならばまだ諦めもつくだろうに。
 自分の考えに、ぞっとする。鉄人が死ぬだって? まさか。あり得ない。
 しかし。
 漠々とした不安。忍び寄る緊張。
 鉄人を中心になにかが起こっていることはうすうす感づいていた。ノエルが編入してから、鉄人は確かに変わった。いきなり癇癪を起こしたり、不審な行動をとったり。もともと他人に感情を読ませるような人間ではなかったが、ますます怪しくなった。挙げ句の果てが此度のトンデモ事件。
 いくら「フツーじゃない」って言ったって、警察に監視されること自体が普通じゃなさすぎるぞ?
 一般的に言って、警察が追うのは犯罪者と相場が決まっている。仮に鉄人とノエルがそうだとして、逃がしたり匿ったりしているようにも見える燕や燕の親父、銀町先生はいったいなんなのだ?
 わからない。なにも。遙兵は判断するだけの材料を持たない。
 考えても混乱するだけだ。解決するにはやはり、説明を求めるほかない。鉄人は拒むだろうから、ノエルか燕に。
 汗ばんだ手のひらを強く握りこんだ。そのとき。
 背後に気配を感じた。遙兵は振り返らなかった。どうせ、鉄人以外のどちらかだ。
「猛地くん」
 燕の声。ほら、当たり。鉄人が来るはずがない。
「猛地くん。すごいねえ、星」
 霧流は遙兵の横まで歩いてきて、ぺたんと尻を下ろした。知らないぞ、ヤギのウンコがあっても。
「こんなすごい星空、ふつうじゃぜったいに観られないよね」
「……うん」
 星の話などする心境ではなかったが、つられてうなずいてしまった。
「弓ノ間くんはね、悪気があって黙っているわけじゃないんだよ」
 おもむろに鉄人の話を振るので、遙兵はチッと舌を鳴らした。だが霧流は続ける。
「くやしいけど、弓ノ間くんは猛地くんのことをすごく信頼してるよ。うらやましいなあって、いつも思ってるんだから。弓ノ間くんがこんどのことを言いたくないのは、ゆみ……」
「聞きたくねえから。テツのことは、もういい」
 燕には裏がある。慰めるためにわざわざ抜け出してくるなんて、世にも奇妙な物語だ。絶対になんかある。
 聞きたくないというのは嘘だが、ここは程々に間をおきたい。
 霧流は少しだけ口をつぐんでいたが、また話しはじめた。
「猛地くんは、プエルトリコがどういう国だか知ってる?」
「……」
「ちっちゃい国だよ。広さは日本の県ひとつくらいしかない。プエルトリコの国民はボリクァっていって、太陽と海の子どもなんだって。日本のバンドで、オルケスタ・デ・ラ・ルスって聴いたことあるかなあ? あれがサルサ。プエルトリコの音楽。陽気で明るいイメージだよね。だけどプエルトリコは、貧富の差がすごく激しくて、七割近くの人が低所得者層地区に住んでるんだ。国内で得られる収入だけでは家族を養っていけないから、ニューヨークに出稼ぎに行く人たちがいっぱいいる。プエルトリコはコモンウェルスっていって、いちおう合衆国なのに、実際は植民地のような立場に置かれてる。アメリカの企業は人件費のかからないプエルトリコで大もうけして、外貨をむしり取っていく。働ける人はアメリカへ流出してしまう。独立運動を起こすだけのパワーもない。アメリカの州に加わることもしないのいか、できないのか。まあ、スペインの植民地時代とたいした違いはないってのが現状だね」
「……だから? ンなの、おれには関係ねえよ」
「関係なくないじゃん。弓ノ間くんのことが気になって気になってしょうがないくせに」
「るっせぇな! ひっこんでろよ、オマエ」
「ひっこまない。猛地くんに弓ノ間くんを誤解させたままほっとけない」
「誤解? ハン、おれのほうが間違ってるって言わせたいわけか」
「そうじゃないけど……」
「自分のこと言いたくないのなら無理して言わなくたっていいんだ。ただ、その程度の関係でこの先もつきあっていくのはしんどい。もともとあいつは秘密主義だからな。いいかげん疲れるんだよ、こっちだってよ」
「言いたくないわけじゃない。弓ノ間くんは、言えないんだ。トラウマなんだ」
「トラウマ?」
 遙兵はやっと霧流に目をやった。暗がりで表情はよくわからない。
「うん。ぼくの知っている範囲で、言うね。弓ノ間くんはプエルトリコのサン・フアンで生まれた。ご両親は日系のボリクァで、国から生活保護を受けていた。プエルトリコは有色人種に対しての差別がきついから、暮らしは楽じゃなかったんだろうと思うよ。そしてね、何らかの理由で、弓ノ間くんは出生届が出されなかったの。あんまり憶測でこういうこと言いたくないけど、子どものフード・スタンプが受給できないから、きっと、もてあましちゃったんだろうね。弓ノ間くんはまだちっちゃいころ、プエルトリコに研究施設のある、合衆国資本の製薬会社に売られてしまったんだ」
「……売られた?!」
 遙兵はぎょっとした。現代でも人身売買があるのは知っていたが、燕のそれは想像を絶する告白であった。
「たぶん、猛地くんも名前は聞いたことのある、大企業だよ。ファイザーにも匹敵する一流の、ね。そういう会社がプエルトリコで甘い汁を吸うから、貧困はいつまでもなくならない」
「そうじゃなくて! おまえ、テツの何を知ってるんだ?」
「弓ノ間くんがその研究施設で育ったこと。とある人体実験を受けたこと。表沙汰にはされてないけど、最大の成功例として各国の出資者や研究者から注目されていたこと。内部暴動に乗じて、弓ノ間くんだけが救出されて、日本に連れてこられたこと。いまの保護者は銀町理事長、と、これはまあ猛地くんも知ってのとおりだけど」
「なんでそんなことまで……燕!」
「だってぼくはある意味、関係者だもん。ぼくの父がヤクザだっていったでしょ? うちの組も小口ながら、出資してたんだ。そのプロジェクトに。インビジブル・ハンド・プロジェクト、通称”神の手”。ニューロコンピュータをヒトの内部で実現する、奇蹟の医学的技術」
 遙兵は絶句した。いくら燕でも、真顔でこんな冗談は言わないだろう。
「あのね、天に誓って、いまは一切関わってないから。ほんと。うかつに手を出したら逆に首を絞められかねないってわかったし、父も結局、銀町理事長に口説かれた感じになっちゃったし。ああ、それから……魁くんだけど、経緯は少しちがうんだけど、弓ノ間くんと同じだって考えてくれたらわかりやすい。あのふたりがべらぼうに記憶力がいいのは、そういう脳外科手術を受けたからだ。天文学的予算を投じて人為的に創られた、天才っていえばいいのかな。だけどさ、天才にだって心ってもんがあるじゃないか。人間なんだよ? みんなそのことをすっかり忘れちゃってるんだ」
「……」
「弓ノ間くんは、相当つらい目に遭ったんだろうと思うよ。だから、過去がトラウマになっちゃってるんだよ……」
 遙兵はハッとした。
「じゃ、ヘルムのおやじたちがテツとノエルを逮捕するかもしれないって、それって……」
「インターポールが日本警察に圧力をかけたんだよ。ことが発覚する前に弓ノ間くんたちを回収しなくちゃ、いろいろとまずい人たちがいっぱいいるんだよ、アメリカに」
「回収って……なにテツをモノのように、言ってんだよ」
「それが現実だからだ。人が消耗品みたいにずさんに扱われてる。弓ノ間くんだけじゃないよ? たくさんの人が同じ目にあった。貧困層の人ばかり。ほとんどの人が、犠牲になった。死んだ。殺された。ジェノサイドだ。悪の枢軸国はイスラムだけとは限らない。アメリカがまさしくそうだ。日本だってそうだ。ぼくは嘘は言ってない。以上。これが、弓ノ間くんが猛地くんに言えなかったことのおおまかな概要。こんな昔話を平気で話せる人がいたらお目にかかりたいね。それに、知ってしまったら、猛地くんが……危険なめに遭うかもしれないからでしょ」
「やめろよ!」
 たまらなくなって、遙兵は叫んだ。「もういい、わかったからもう、やめろよ! そんなことを暴くつもりじゃなかったんだよ! おれはただ、テツが、優柔不断で……なにもしゃべってくれないから……おれは、悔し、くて……」
 霧流は草むらに座ったまま、遙兵の脚に体重をかけてきた。
「友だちだから、秘密を持たれるのが、いやだったんだよね」
 遙兵はこぼれ落ちる嗚咽を止めることができなかった。
「猛地くんは、弓ノ間くんのことが、ほんとうに好きなんだね。弓ノ間くんも、猛地くんのことが大好きなんだろうなあ。いいなあ……」
 いつもだったら「気色悪い!」と一蹴しそうな霧流の台詞も、さえぎる気力すらわいてこいない。それどころか、そばにいてくれる霧流に、感謝すら覚える。異常だ。天変地異だ。じきにそのへんの近海で海底火山が噴火するかもしれない。
「テツの……どアホウ」
 つぶやきが小さく震えて消えた。
 あれは――いつだったか。そうだ、はじめて殴った日だ。物置のような反省室にいっしょに閉じこめられて。
 「テッドと呼んでいいか」と訊いたら困ったような顔をしていた。その名で呼ばれるのは好きじゃない、そんなことを言っていた。
 悪意のない刃でも、凶器になる。もとからあった傷口は、さらに抉られて新たな血を流す。なのに、例の薄ぼんやりとした顔でなんともないふりをしてみせた、天才、弓ノ間鉄人。
 極端なほど感情表現に乏しい友人。バカだな。我慢していることくらい、ちょっとでいいから表情にしてみろや。だいたい、不器用なんだ、やつは。
 なんだかいますぐに鉄人の顔が見たくなった。ごめんと謝りたかった。だけど、鉄人は謝罪されることを望まないだろう。しらばっくれて、無理に笑みをつくるだろう。そんな痛々しい顔はさせたくない。
 いまの気持ちははっきりしている。親友として、鉄人をモノ扱いする連中から守りたい。
 そのためには、まず自分がしっかりしなければ。自らを「おまけ」と卑下するのはやめる。最初から自分は頭数に入っていたのだ。ちゃんと役割を与えられたのだ。そう思うことにする。
 途方もない戦いが始まりそうな気がした。だが、怖じ気づくつもりはない。
 ダチだから、守る。どこか間違っているだろうか。一般人だからとか、何も知らないガキだからとか、危ないからとか、そういう御託よりははるかに説得力があるように思う。
 鉄人を利用しようとするどこかの誰かに、宣戦布告してなにが悪い。
「燕」と遙兵は言った。「おまえは、テツの味方か?」
「あたりまえじゃん。なにその間抜けな質問」
「だよな。うん。なら、いい」
 霧流はアハハと笑って立ち上がり、星空に思いきり伸びをした。
「すごいなあ。降ってくるみたいだ。マジ寝ちゃうなんてもったいないな。あ! ねえ、弓ノ間くんと魁くんを呼びに行かない? 寝てたら起こしちゃおうよ! けっとばして」
 そう言って遙兵の手をとった。そのぬくもりがとても心地よいと、遙兵は思った。

end

インビジブル・ハンド番外編


2009-11-11