荷物をひろげると、いちばん上に小さな巾着袋が乗っているのが見えた。
中身は干し肉にちがいない。きっと食べやすいように几帳面に裂いてあるのだろう。仮眠をしているあいだに、連れが準備してそっと荷物に紛れこませておいたらしい。
テッドはぼんやりとうす緑色の巾着袋に視線をただよわせて、手もつけずに蓋を閉じた。
胃のなかはからっぽだ。最後に食べたのがいつだったかも覚えていない。
空腹という意識がすっぽ抜けているからか。食べ物を見てもなんの感情も抱けない。それどころか、自分がいまなにをやっているのか、それすらもはっきりとわからない。
腹が減ったからなにか食べたいという欲。
もう何日もまともに眠っていないから横になりたいという欲。
木の根で傷つけた腕が痛むので応急処置をしたいという欲。
なにもない。あるいは、わからない。
自分はとうとうおかしくなってしまったのだろうか。
もうどれくらい、森を彷徨っているのだろう。
もういい加減抜けてもいいはずだ。この深い森はいったいどこまで続いているのか。
それとも、同じ場所をぐるぐるとただ回っているだけなのか。
連れがいたら、こんな迷路はすぐに見破っただろうに。あいつは森のなかではやたらに鼻がきくやつだから。
だけど、いない。
もう、いない。
ばかなおれを庇って死んでしまった。
頭では理解しているのに、心がともなっていかないのだ。テッドはもう三日もその木の根元にしゃがみこんだまま、心だけを森のなかに彷徨わせていた。栄養摂取も睡眠も怠っているために体力はどんどん奪われて、ただでさえ未成熟な身体はこのままではほんとうにだめになりそうだった。
連れの死は不幸な事故だったと割り切れるほど、テッドは傲慢でいられなかった。
自分でもそうと認識できるほど力を増した右手が、おまえのせいだと嗤うからだ。
拒絶しきれなかった自分、無視していれば大丈夫と高をくくっていた自分、心配してもらうことに心地よさを覚えはじめていた自分。甘すぎた自分を罵倒し、糾弾できたら、少しは発散もできたのだろうが。
あまりにも己が愚かすぎて、激怒することも憎悪することも―――できなかった。
このまま衰弱して、消えてしまいたい。
消えるのがだめならせめて、地獄に堕としてほしい。
この世界に存在しなくてよいのなら、地獄だろうと、どこへだろうと赴く。
欲心は、なにもかも破壊する。
だからなにも願ってはいけないのだ。思い知ったか、ばかめ。
欲したものを喪って、いい気味だ。もっとずたずたに傷つけ。二度と愚かな欲を抱かぬように。
おまえには心など要らない。
くだらない紋章の器でいろ。そのままフラフラと、どこへなりと歩いていけばいいのだ。
ざわざわと、森の木々が揺れた。
テッドはむくりと上半身を持ちあげて、顔をゆがめた。
胃が、しくしくと痛む。あろうことか、空腹を訴えているのだ。
この期に及んで、とことん愚か者の自分。
「……くそっ」
乱暴に荷物をひったくって、例の巾着をとりだす。
干し肉にかぶりつく。
やたら塩辛かった。
生きていくんだよと、連れが遺してくれたもの。
生きていくんだよ、テッドくん。
腹がたって、悔しくて、テッドは固い干し肉を無茶苦茶に噛みちぎった。
咀嚼して、飲みこむ。異物感が痛みをともなって胃に落ちていく。
「……っ、うっ」
嗚咽しながら、また次の肉。
生きてやるさ。どんなに醜悪でも、滑稽でも、みじめでも。
もう二度と間違ったりしない。こんな失態は、これで最後だからな。
「こんちくしょう。ばかやろう」
高い木を見あげて、渾身の悪態をついてやった。
ざわ、ざわ。
枝が鳴った。
