死ぬ。それはどういう感じなのかな。
ぼくは人が死ぬところを何度も見た。
死に顔はやすらかだったなんて無責任に言う人がいるけれど、そんなのただ現実から逃避したいだけ。見ていたのなら、嘘をつく必要なんてない。みんな苦しんで、痛い痛いって泣きながら、死ぬ。
人は生まれたら、必ず死ななきゃならない。『摂理』っていう、生まれるときに神様と交わす契約なんだって。だれが教えてくれたのかわすれた。ぼくはそんな約束は憶えていないけれど、別の神様が強引にそれを反故にしちゃった……みたい。
たぶんぼくも死ねる。でもそれは絶対にしちゃいけない。そもそも試してみる勇気なんてない。死んだらだめっていうのは、神様じゃなく、ずっと昔に死んじゃったおじいちゃんとの約束。おじいちゃんは神様じゃないから、約束を破ったらきっと許してくれないと思う。
死ぬことはこわい。ぼくは痛いのはきらいだから、あんなに苦しみたくなんかない。それに死んだらなにもかもなくなっちゃうんだよ。そんなのいやだ。
だけど、どうしてだろう。どこかで憧れてる。ときどき、夢を見る。ぼくの魂がゆっくりと抜けていく。ふわふわとした感じで、ちっとも痛くない。だっこされてる、あの感じ。
もちろん、ただの夢だからね。ほんものの死はそんな甘くない。
夢で死ぬのは好きだ。もうがまんしなくていいんだって、嘘でも思えるから。抜けていって、身体から離れて、泡のように消えて、ぼくは、なくなる。
儚い夢はあっというまに終わって、目が覚めたら暗闇。
身体が重くって、ぼくは泣いてる。泣きながら、笑ってる。
そしてだれもきいていないのに、つぶやいてる。
よかった―――まだ、生きてた。
ぼくは死にたいのか、死にたくないのか、いまだによくわからない。
もう呆れるほどの長いあいだ、他人の死を見届けながら、うつろに彷徨ってる。
