誰からも指図されないというのが、とにかく大事なことだ。決定権はいつだって己にあるのだから、どんな理不尽な目に遭おうと大丈夫。逃げるも戦うも自分で決める。
だらだら長く単調でつまらなかった俺の人生。終わらせてしまおうと企てたのも一度や二度ではなく、ある時はあっちの世界に片足を突っ込んで、救ってくれる人がいたから良いようなものの、でなければ色のない霧に沈んだまま永遠に寝ぼけていたかもしれない。
落ちるところまで落ちたら、あとは這い上がるしかないだろう? 曇天に裂け目が生じて太陽がのぞいたら、誰だってほっとする。その光を見てしまったらもう、歩くだけだ。どこまでも。
いま思うと、そう悪くもない人生だった。守るべき約束など、ひとつで充分。身体は軽く、荷物も軽く(右手の相棒はクソほど重いけれど)、世界にあふれる色彩は心を奪われるほど美しい。
俺には自由と、たくさんの時間があった。生きる理由など、それだけで足りた。自分が幸せかどうかなんて、とっくの昔に悩み尽くして飽きてしまったし、きょう一日をいかに心穏やかに過ごせるかを考えるほうが、老人らしくてすばらしい。
楽しかったか? そうだな。けっこう楽しかったぜ。
だから、自由にならない命なら、俺はそんなものは要らない。
どうするかは、自分で決める。貫いてきたその信念を違えることなく、俺の手で終わらせることを誓う。
東の色が変わってきた。
昔は絶望の始まりであった夜明け。繰り返す日々への憎しみの象徴だった色。
ああ、きれいだなあ。
この色を、旅立ちの荷物に入れよう。
2023-09-11 初出
