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回る回る霧の船

「こちらへ。船長のところにご案内します」
 変な配色のローブを目深にかぶり、無骨な鎖で首元を巻くという珍奇なファッションで現れた男は、熱を感じない不思議な松明を奥の闇にかざした。
 何か動いている。丸いものが規則的に、床の上を滑るように廊下の向こう側へと。
「これに乗ります。二貫……いえ、二人乗りですから、まずわたしとあなたが先に。お連れの方も続いて後ろのお皿……お席に乗ってください」
「変な形のトロッコだな」とリノ。音もしないし、座席はものの見事に丸皿だ。なんだか気味が悪い。
「さあ、どうぞ。タイミングを合わせて、こう、すっと」
「待って」
 ラズロは青い瞳を輝かせて言った。
「金色のお皿がいいな、ぼく」
 なるほど、流れてくるお皿には色の異なるものがある。多くは黄色で、たまに臙脂色、黒、そして縁飾りのついた金色がたしかにさっき過ぎ去って行くのが見えた。
 男は不満そうになにかモゴモゴ言った。
「……だめです。百ポッチの黄色しか認められません」
「百ポッチ?」
「なんでもありません。とにかく黄色以外は特別席なので、だめったらだめです。さあさあ、船長がお待ちです。とっとと乗ってください」
 だいぶ苛立っているようだ。ローブの男。
 言われる通り黄色のお皿に移動する。手すりもないのでリノは少しよろめいた。ガタゴト動くのかと思いきや振動を全く感じない。本当に水の上を流れていくようだ。
「歩いたほうが早くないですか」
 至極まっとうなラズロの感想に、男は無視を決め込んだ。たぶん彼もわかっちゃいるけど立場上それを口にはできないのだろう。
 シュールなお皿の列は一本道を奥へ奥へと進んでいく。どんなからくりで動いているのか知らないが、帰りはちゃんと逆向きに動くのだろうか? まさか一方通行ということでは無かろうな。リノが不安になった、その時。
 暗闇になにかがうごめいた。
 ラズロも気づいたようで、腰の双剣に手を伸ばす。
「目を合わせないで!」
「えっ、だけどどう見てもアンデッドじゃないか!」
「流れている限り、目を合わせなければエンカウントしません。まあ、お会計……ごほん、船長とお話しするのにレベルが足りなければここで上げておくのもアリですが」
 男、うっかり船長がエリアボスであることを認めた。
「レベル上げをめんどくさがってたら、どこかで詰むよ!」
 そう言い放ってラズロは双剣を振りかざした。
 三匹のアンデッドたちがこちらに気づき、次の瞬間、手(?)を伸ばして――お皿をむしり取った。
「わーっ!」
 叫んで盛大にコケたのはローブの男。レベル上げをめんどくさがって詰むタイプに違いない。
 戦闘開始!
 アンデッドらは思いもよらず強敵で、倒しても倒しても執拗に復活してくる。
「くそっ、どうすりゃいいんだ」
 戦闘に加わらず、後ろのほうで傍観するローブの男が「骸骨は二体同時に倒さないと」とかなんとかほざいた。
「お前も手伝え!」
「あいにくですが、わたしはただの案内役なので」
「かーっ! 役に立たないやつだ」
 リノが文句を言うそばで、ラズロはちゃんとアドバイスを聞いていたらしい。「そうか!」と言って瞬時に戦法を変えた。
 個別撃破をやめ、全体攻撃でじわじわと削る。そして、
「とどめーッ!」
 戦闘終了。
「お見事」と手を叩くローブの男。何もしていないくせに偉そうだ。
 再び黄色のお皿に乗り、先へ進む。どこまでも一本道で、壁の模様が青白く光っている以外はマジで何もない。船だと信じて乗り込んではみたが、断言できる。絶対に船じゃない。
 その時、ブーンという音がした。
「えっ、なに?」
 ラズロが音をした背後を振り向くと、来た道の彼方から何かが近づいてくる。
 それは猛烈な勢いで、あっという間に彼らの横を通り過ぎて行った。
「なんだ、今のは」
「トロッコみたいな形をしていたよ! 白くて、青い線が入っていた!」
 動体視力の優れているラズロが興奮気味に叫んだ。ローブの男は「うるさいなあ」みたいな顔をして、ボソリと言った。
「あれは、シンカンセンです」
「シン……? なに?」
「シンカンセン。個別オーダーをお客様に直接届けるやつだから、あなたがたには関係のないものです。俺もアレに関してはよく知りません。他にもタッチパネルとか、あなたが興奮しそうなものがいろいろありますけど、忠告しておきます。百万世界の謎技術には、いっさい関わらないほうが身のためですよ」
 百万世界?
 百万世界と言ったか、案内人?
 ていうかその姿勢で案内人が務まるのか、案内人?
「わくわくするね」
 ラズロに目をやると、楽しくて仕方がないという顔で道の先を見据えているのだった。


2023-04-14 初出