竜洞騎士団の若き副団長ミリアは、竜を見あげている黒い瞳の少年に心騒がせられていた。
外見に騙されてはいけない。そう自分に言い聞かせても。思い描いていた人物像と本人とのあまりにもの差異に落胆せずにはおられず、ミリアは小さなため息をついた。
解放軍が騎士団に同盟を求めてくることは予測がついていた。帝国の兵力に対する解放軍の数は足りているとは言いがたい。中立を保っている竜洞騎士団を味方につけることで反帝国勢力を拮抗させる策は、遅かれ早かれ採られるはずであった。
騎士団としても中立姿勢にはもはや限界を感じはじめていた。以前は頻繁に交されていた皇帝との対話もちかごろはぱったりと途絶えていたし、騎士団領の近隣の町をつぎつぎと占領した帝国の暴挙も到底理解できなかった。叛旗をひるがえす時は、たしかに来ていたのだった。
解放軍のトップはまだ十代半ばの少年であるらしいと噂で聞いていた。ミリアも二十歳をわずかに越えたばかりで誇り高き竜洞騎士団のナンバー2をつとめているのだから、別段あり得ない話ではないと思っていた。有能でカリスマ性があれば民はついてくる。そこに年齢は関係ない。
だがその少年をはじめて紹介されたとき、正直なところミリアは「なんでこんな子供が」と驚かないわけにはいかなかった。勇猛果敢な勇者とは言わないまでも、知謀に優れ、機を逃さず、民に道を示す者であれと願った。その期待を知ってか知らずか、彼は第一声で、こう叫んだのだった。
「わー! 竜だー! 竜、竜がいっぱい寝てるー! うっわー!」
ほんとうにキミは万の兵力を従える頭領か?
彼の傍らにかつて帝国百人隊長として名を馳せたハンフリー・ミンツがいなければ、そして彼が竜洞の見習い竜騎士フッチと旧知の間柄でなければ、ミリアはこのいまいましい不法侵入者たちを問答無用で叩きだしていたにちがいない。
黒い瞳をもつ少年ルーファスは、遠い昔を愉しむように声を弾ませた。
「なつかしいなあ、この竜。これさ、あれだよね。魔術師の島に行ったときぼくたちを乗せてくれたあの子だよね」
「あ、憶えてくれてた? そ。おれの騎竜だよ。でも名前は憶えてないだろ、さすがに」
ルーファスはにやりと目を三日月にして勝ち誇ったようにフッチを見た。「ブラック」
「……記憶力、いいじゃん」
「だって、ぼくの友だちが空飛んでいるあいだわあわあ言ってたじゃないか、いけー、とべー、ブラック!って。あれですっかり脳裏に焼きついちゃって」
「そういえば、そんなこともあったかな」
「そうだよ」
ルーファスはどこか寂しげに笑った。
「あのわめいてたうるさいヤツ、どうした?」
「……ん?」
フッチの無邪気な質問に、端で会話を聞いていたクレオはぎくりとした。だがルーファスは動揺も見せずにさらりと流した。
「いまは遠いところにいるよ」
「フーン」とフッチは鼻を鳴らし、「会いたかったのに」と呟いた。
フッチにとって、あれほど全身でブラックに感動してくれた人ははじめてだった。ブラックはフッチにとって同じ魂とも呼べる竜だったから、嬉しかったのだ。
『すっご! おい、城があんなにちっぽけに見えるぜ。うわー。綺麗だ。湖がキラキラ光ってる。あ、なあなあ、あの山のむこうに見えるのってサラディだろ? へー、あんなに近くにあるなんてなあ。こないだルーとサラディまで歩いて大変なめに遭ったんだぜ。っと、おいおいおい! 鳥がいっしょに飛んでる、鳥が!』
喧しいヤツだなあ、とは思ったが悪い気はしなかった。
彼は憧れと尊敬を満々にあらわしてフッチに言った。
『おまえ、すごいな! 竜騎士って、すごいな!』
照れ隠しもあってつい喧嘩腰風に別れてしまったが、いつの日かもう一度、彼をブラックに乗せて大空を飛んでみたかった。
一人前の竜騎士になれたら、彼は喜んでくれそうな気がする。
フッチは与えられた任務を思い出して緊張した。自分にしかできない、重大な役目なのだ。ブラックに騎乗できるのは、竜洞騎士団では自分しかいないのだから。
「フッチのブラックと、わたしのスラッシュだけが哨戒に出ていたため難を逃れました。いまは誰が竜たちに毒を飲ませたかということより、一刻も早くリュウカン殿に解毒薬を調合していただくことが先決です。お話は、すべてそれからです」
ミリアの言葉にフリックが感心したように言った。
「おいおいおい、竜が前提ですってヤツかよ。こっちも急ぐ話なんだがなあ」
「我々は」と、ミリアは冷たく言い切った。「竜とともあってこその騎士団です。竜がいなければ、存在する価値もありません。まったくの無力です。当然あなたがたに力をお貸しすることもできません」
「へいへい」
眉すらも動かさずにミリアはフッチに告げた。「フッチ、いいね? お前の任務は重大だよ。城の空中庭園は警戒が薄いだろうけれど、敵陣のまっただ中だということを忘れないように。黒竜蘭を見つけたらあとは手出しをせずに戻ってこい。深追いをするんじゃないよ」
「わかりました、副団長!」
フッチはひらりとブラックにまたがり、「さあいこう、ブラック!」と叫んだ。少年の黒竜は小ぶりではあるが、精悍な顔つきをしていた。
竜はもともと異世界の生物である。竜洞騎士団は27の真の紋章のひとつである竜の紋章を守り、その力で竜の現存を可能にさせる。竜とともにあるというミリアの言葉はあながち大仰でもないのである。
ブラックは大きな翼をひろげ、透き通った声で啼くと高く飛翔した。
ルーファスは感嘆の叫びをあげた。
ミリアはそれ以上の猶予を与えずにルーファスに向き直った。
「ルーファスどのはわたしの竜にお乗せします。その前にひとつ、確認しておきたいのですが……」
「なんでしょう?」
ルーファスはきょとんとしてミリアを見た。
「手短に申し上げます。わたしは見てのとおり若輩者ではありますが、団長のヨシュアから権利を一任されております。ですから竜洞騎士団の意志としてお聞きください。騎士団はいま、かつてない存亡の危機にあります。竜を喪うということは、騎士団の存在理由を失うということです。ヨシュアさまはわけあって竜洞を離れるわけには参りませんが、そのかわりにわたしが、命を賭けるつもりです。これは竜騎士としての誇りです。解放軍の方々と行動をともするかどうかも、今後わたしはわたしの意志で決めさせていただきます」
ルーファスは真剣なミリアの話を聞いていたが、にっこりして首を傾けた。
「お互いに、ですね」
「えっ?」
「信じるものが、あるんですね。お互いに。ミリアさん、よろしくお願いします」
ルーファスは握手を求めた。ミリアはそれを受け取ろうとしたが、ルーファスが左手であることに気づき慌てて出した右手を引っ込めた。
「じ、じゃあ参りましょうか、ルーファスどの」
ミリアは突然訪れた奇妙な感情に戸惑った。それを振り切るためにわざと大胆に騎乗する。フリックが口笛を鳴らし、「かっこいいねえ」と言った。
ミリアの竜、スラッシュの身体はまばゆいほど赤かった。竜は地水火雷風という五行のいずれかを力の源にするのだが、スラッシュはまさしく炎の竜であった。ひときわ甲高く啼き、早く乗れと一行を促す。智恵は時として人間以上なのだ。
ルーファスに続いてフリックとハンフリーが乗り込んだ。クレオもあとに続こうとしたが、ルーファスがそれをとめた。
「クレオはリュウカン先生についていて」
「しかし、坊ちゃん……」
「気になるんだ。先生、何かを隠してた。薬の材料を月下草と黒竜蘭とあとひとつ……って言ってただろう。なんか、ひっかかって。言いづらいことがあったのかもしれない。クレオにならわけを話してくれるんじゃないかな」
「わかりました、坊ちゃん。じつはわたしも気になっていました」
「たのんだよ、クレオ」
「お守りできませんが、気をつけて」
クレオは高く舞いあがるスラッシュに手を振った。大きな竜は、やがて赤い空にその身体をとけこませた。不安をかき立てるような血の色の夕焼けであった。月下草は満月のもとでしかその蒼い花を開かせない。夜が訪れようとしているシークの谷へ向けて、スラッシュは高く高く飛翔していった。
「シークの谷を、わたしたち西の地の者はクリスタロスの祭壇と呼んでいます。古代より祈りを捧げるための地であったと思われます。聖域であるため、本来なら軽々しく足を踏み入れてよい場所ではありません」
スラッシュが谷のほとりに舞い降りると、ミリアは声をひそめて言った。ルーファスは足元にざっくりと口を開ける断崖をのぞきこんでゾクリとした。はるか奥底にごうごうと水が流れている。
「落ちたら、ひとたまりもないって感じだね」
「月がのぼってきました。月下草の花がひらきます。行きましょう」
フリックが訊いた。「竜で行かないのか?」
「シークの谷は水晶の鉱脈があります。ここの水晶はつねに振動していて、竜はそれをとても嫌います。それに月下草もどこにあるかわかりませんから、歩いてさがしたほうがよいでしょう」
「……フム、リュウカンどのも月下草は非常にめずらしい花だ、と申しておられたしな」と、無口なハンフリーも同意する。
吊り橋を渡るとルーファスは、あまりの美しさに驚嘆のため息をついた。最初は蒼い花が一面に咲いているのかと思った。だがその花びらの一枚一枚は、すべて鉱物の結晶であった。
「……石の花だ」
思わず漏れ出たその言葉に反論する者はいなかった。岩盤に根を下ろし、夜の闇に向かってひらく鱗片は、枯れゆくことのない水晶の花だった。
月の光を受けて水晶は内部にほんのりと光をためているように見えた。空と地面からの光でルーファスたちは夜の谷を苦もなく歩くことができた。誰もがみな無言で歩を進めた。言葉を発したら最後、まわりの光景が霧のように消えてしまいそうな危うさがあった。
胸が疼くのは現実離れした光景のためだけではなかった。ルーファスは谷の入り口からずっとまとわりついてきた、右手の厭な感じに苦しんでいた。
父のテオを討ったときにも同じような感覚があった。グレミオやオデッサを喪った時もそうだった。ソウルイーターが、また誰かの魂を欲しているのか。
ルーファスは右手をぎゅっと握って、その考えを追い払った。
祈りの谷が侵入者を暗示にかけているだけだ。あるいは試されているのかもしれない。ルーファスたちが月下草を持ち帰るに相応しい人物なのかどうか。
振動するという水晶はときおりキーンという高い音で共鳴した。まるで石がざわざわと会話をしているようだ。
谷の道は幾つも分岐していた。先導するミリアが思案するたびに、ルーファスは迷うことなく「こっちだ」と道を指した。そのうちミリアはルーファスに先頭の座を明け渡した。
なにかに導かれるようにますます歩を早めるルーファスに、ミリアたちはついていくのが精一杯になった。いったいどうしたというのだろう。
「ルーファスどの! 少し先を急ぎすぎなのではないですか」
ミリアが息を切らして呼び止めると、ルーファスはきょとんと振り返った。
「え? あれ?」
「どうしちまったんだよ。急に夢遊病のようにどんどんどんどん先に突っ走って」
「ぼく……そんなだった?」
ぜいぜいと喘ぐ残り三名を不思議な目で見るルーファスは呼吸ひとつ乱してはいなかった。気がつくとあたりはさらに多くの水晶で覆われ、氷河に包まれているようだった。
夢を見せられていたのだろうか。
谷の奥で自分を呼ぶものがあった。その声はあまりにも切なくて、愛しくて、ルーファスはどうしてもそれを手に入れたかった。
水晶がざわざわと騒いで道を示した。おまえを待っていた。そう告げられた。
ソウルイーターがさらに蠢いた。胸がどきどきする。もう近い。すぐそこに。
「すぐ……そこだ」
またふらりと立ちあがったルーファスを、ハンフリーの叫びが止めた。
「行くな! なにかいるぞ!」
ルーファスの瞳に正気が宿った。次の瞬間、衝撃と恐怖に彩られる。
「……なんだ……こいつ!」
「ルーファスどの!」
待ちかまえていたのは邪悪なモンスターであった。いや、モンスターと呼ぶに相応しいのかどうか。おそらくはそれに意志などはなく、胃が異物を吐き出すようにルーファスたちを排除しようとしているのだ。
「聖なる地の護りか……? いや、ちがうな」
ミリアは自分の考えをすぐさま否定した。モンスターの持つ”気”はシークの谷とは異質のものに感じる。いつになく水晶がざわめいていたのもこれで合点がいく。
「何者かが水晶を核に使い、こいつをつくったんじゃないのか」
「あなたもそう思いますか、ハンフリーどの。ええ、モンスターを操る術を持つ者はいます。とても高度な技ですが。もしかしたら、罠かもしれませんね」
「竜に毒を盛ったやつらだな」とフリック。解毒剤の材料を採取に来ることを見越して、ここで待ち伏せていたのだろう。だが、敵の狙いがわからない。
竜洞騎士団への私怨か。それとも、解放軍か。
「どうします」
ルーファスはミリアに言った。「こいつをなんとかしなければ、この先に進めないんだろう? だったら、倒すしかないじゃないか。だって、すぐ、そこにあるのに……」
「この先この先って……なにかあるのですか?」
ルーファスはわずかに瞑目して肯いた。
「……ある」
ミリアが止めるのも聞かず、ルーファスは棍をクリスタルの化け物に向けた。
「やるしかなさそうだな」
「……うむ」
フリックはいまは亡き愛した女性の名を冠した剣を抜いた。ハンフリーも大太刀をぶんぶんと振り回す。相手が人の心を持たない単なる悪意である分、斬るのに躊躇はいらない。
「どりゃぁぁあっ!」
速い! ミリアはルーファスの戦法に舌を巻いた。どちらかというとおっとり加減が目についた少年だったが、棍を持った彼は別人であった。しかも攻撃は正確無比であった。カイ師匠直々に仕込まれた棒術は貴族の遊びの域ではないのだ。
「へへっ、あいかわらずやるじゃないかルーファス!」
フリックも嬉しそうに剣を振るう。ハンフリーのひと突きは強烈そのものだ。帝国百人隊長は名ばかりではない。
ミリアも必死になって槍を構えた。ほぼ完全なる球体のモンスターはそのどこが急所なのか見当もつかなかったが、目玉にも見える紅緋色の内包物をめがけて一気に突いた。
モンスターはかなりの魔力を有しているらしく、槍とともにミリアが放った破魔の攻撃を完璧にはね除けた。
「くそっ! 手強いな」
「ミリアさん、あぶないっ!」
怒ったモンスターがミリアに雷の一撃を叩き込もうとした。それに気づいたルーファスはミリアに突進し、その身体を突き飛ばした。
「うわーっ!」
「ルーファス!」
とっさに庇ったものの、側撃は免れなかった。ルーファスは弾かれ、一回転して背中から地面に激しく叩きつけられた。
ミリアはよろめきながら立ちあがって、ルーファスに駆け寄った。
「あいたたた……」
深刻な怪我はしていないようだ。ルーファスはブンと首を振って、心配そうなミリアを見るなり言った。
「あ、大丈夫?!」
「だいじょうぶ?……じゃなくて!」
「え?」
「どうするんですか、もしものことがあったら! ルーファスさんムチャクチャですよ! いまあなたが大変なことになったら、解放軍は瓦解するんじゃないですか?! 人のことよりもっとご自分を大切にするべきではないのですか?!」
めずらしく感情をむき出しにしたミリアに、フリックが愛剣オデッサを振りながら言った。「あームダムダ、そいつになに言っても無駄! リーダーってのはどっかの皇帝と違って椅子に座ってりゃいいってもんでもないからな。……っ、よっと! くそっ、しつこいな。ルーファス、足はしっかりしてるな? 反対側に回りこんで挟み撃ちにしてしまえ!」
「オッケイ、フリック!」
唖然とするミリアを残して、ルーファスはだっと駆けた。
「もう! バカな連中!」
ミリアも負けじとモンスターに噛みついていった。こうなったら多少の被害は覚悟して強行策をとるしかない。回復魔法は所持していないが、応急手当ぐらいならできる。
四方からの攻撃にモンスターは次第に劣勢となり、ついに水晶核をまき散らして霧散した。
「はあ、はあ、はあ、やった」
「ああ、ちくしょうめ!」
キラキラと降る鉱物の欠片はまるで雪のようで幻想的だった。
だが一行にはモンスターの残滓に見とれる余裕はなかった。これを仕掛けた人物がどこかで様子を窺っているかもしれない。
「これが罠だとしたら、空中庭園の方も見張られていると思ったほうがいいわね……」
ミリアは急に心配になった。フッチをひとりで行かせたのはやはりまずかったか。
「早く月下草を探して、帰りましょう。わたしはそのあと空中庭園へ飛びます」
「ようし。ルーファス……あれ? ルーファス」
フリックはきょろきょろとして我がリーダーを捜した。ルーファスはいつのまにかひとり列を離れ、モンスターのいた場所のさらに奥へ向かって歩いていった。
モンスターの気配が消えても、右手の疼きは治まるどころかさらにその胎動を激しくしていった。ルーファスの意識はもはや、そこへ向かうこと以外に辿るべきものを失っていた。
ごうごうと水の流れる音がする。滝があるのかもしれない。それとも谷を渡る風の音か、幻聴か。
道は小高い丘に出た。そこが行き止まりだった。
どちらを見ても蒼の清けき世界だった。水晶が一斉に輝いてルーファスを招く。
(来たね)
(……来たよ)
(来たんだね)
(ああ)
(よく、来たね)
ルーファスはハッとした。
あれは月下草ではないか。
崖の淵に一輪だけ咲いている。神々しい蒼色だった。まるで咲くためにあたりの水晶を犠牲にしたかのような、すっかり同じ輝きの花であった。
その横に、やはり蒼のローブをまとったひとりの女性が立っていた。
「よく、来たね」
「ウィンディ」
「坊やなら、クリスタルコアを倒してここへ来るのではないかと思ったわ」
ウィンディはくすくすと笑って腕組みをした。
「このお花が欲しいのよねえ? でもお生憎さま。ノコノコとやってきたおまえが悪いのよ。そうね、見逃してやってもいいけど……そのかわり、置いていってもらえるわよね」
「……」
「おまえの右手の、アレよ」
遅れて駆けつけたフリックがただならぬ様子を察知して怒鳴った。「誰だ、おまえは!」
「おや。邪魔者もまだくたばっていなかったのね」
ウィンディは左手を音もなく滑らした。プラズマのような目映い光が奔ったかと思うと、ほとんど衝撃も与えずにフリックたちの足元に炸裂した。
「あ、足が動かない?!」
「”影縫い”の術か!」
「フフフ。そこでおとなしく見ていらっしゃいな」
ウィンディはふたたびルーファスに向き直った。
「どう、解放軍ごっこは楽しい? わたしもとっても愉しいわ。坊やが逃げないってわかったから、どうやって懲らしめてあげようかと、それを考えるのがとてもとても愉しかったわ。まんまと来てくださって、ありがとう」
「ウィンディ……ぼくは……お前、だけは……」
「ああら、なあに? 許さないっておっしゃりたいのかしら」
「……テッド、を」
ルーファスは激怒を瞳に浮かばせて絞り出した。「テッドを、返せ」
ウィンディは心底嬉しそうに、笑った。そして言った。「いいわよ」
ルーファスの瞳はそのままの色で凍りついた。右手が、ピクン!と跳ねる。
水晶が共鳴してキーンとざわめいた。月下草がそよりと風に、揺れた。
月下草?
いや、ちがう。あれは─────
ルーファスの顔がくしゃくしゃに歪んだ。
どうして気づくことができなかったのだろう。気配すら感じてやれなかった。ぼくを呼んでいたのは、きみの声だったのに。
テッドの姿が月光に浮かんだ。彼はそこでルーファスをずっと待っていたのだ。
聖地巡礼の気分で書いています。BGMは真蒼の回想終曲でお願いします(はい?)。
2005-11-15
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