第九題「不覚にも助けられて」
注文していた毛糸があいにく在庫切れだったらしい。問屋からの入荷も期待できないと店のおばさんは申し訳なさそうに何度も頭を下げた。
「待たせたうえにわざわざ出向かせちゃって、ごめんねえ」
「いいんですよ。途中で色を変えるのも、かわいいんじゃないかしら。オレンジにあわせるとしたらどんな色がいいと思います?」
カミラ・ドナヒューは落胆するどころか、むしろその思いつきに心を躍らせた。誕生を待つ赤ん坊のおくるみを編みながら、途中で毛糸が足りなくなるという初心者にありがちなトラブルに見舞われたが、それすらも発想の転換次第でこんなにも楽しいできごとになる。
マタニティ・ブルーといわれる妊娠期によくある落ちこみを、カミラは必死で遠ざけようと努力した。払拭できないつらい記憶も、悲しすぎる思い出も、前向きでない気持ちはすべてお腹の子に伝わってしまう。
カミラはできるだけ笑うことにした。無理にでもそうすることによって、精神とはほっと安堵するものらしい。泣いてばかりいては、前に進めない。
母親になったのだから、もっともっと強くなりたい。
カミラはああでもないこうでもないとあっちをとりこっちをとり、かなりの時間をかけて毛糸をみつくろった。今度は少し余分に買っておこう。余ったらお揃いのミトンを編める。
代金を払うために財布をさがした。ところがカゴのなかをいくらかきまわしても、財布は出てこなかった。
前回の買い物のとき野菜といっしょに取りだしたまま、台所に置きっぱなしにしたかもしれない。こういううっかりはしょっちゅうだ。いつもそれでチェスターにドジだとからかわれる。
「おばさん、ごめんなさい。あとでまた買いにきます」
「いいって、いいって、持ってお行き。お金はまたついでのとき。あんたもそのおなかじゃ、何度も出歩くのは大変だろうからね」
「あら、でもお医者さんには適度に運動しなさいっていわれてるのよ」
「じゃあ、おうちのぞうきんがけでもしなさい。あたしもそのおかげで毎回安産だったんだよ」
半ダースも子どものいるおばさんはにこにこして、袋につめた明るい麦穂色の毛糸をカミラに手渡した。
カミラは恐縮して、自分の間抜けさ加減に苦笑いした。
大きいお腹はめだつらしく、町にでるといろいろな場面で人の情に触れる。旧市街の住人たちのあたたかさには助けられてばかりだが、だからといって甘えてばかりもいられない。子どもを産み育てるということは聞くところによるとかなりの重労働らしく、それをはじめて体験するカミラに不安がまったくないといえばうそになった。
赤ちゃんも母親の迷いを察したか、がんばれとばかりにぽこぽことお腹を蹴った。
「いつも元気ね、テッド」とカミラはお腹をさすりながらやさしく語りかけた。
おばさんは眼を丸くして、アハハと笑った。
「もう名前をつけてんの。気の早いおかあさんだね」
「ええ、テッドっていうんですよ。夫ときめたんです」
「女の子だったらどうすんだい」
カミラは「どうしようかしら」と肩をすくめたが、解決策を口にするでもなくお辞儀して店をあとにした。
帰りすがら市場で夕のおかずを買うつもりだったのに、財布がなくてはどうしようもない。いったん住まいに戻ろうと踵を返したとき、十歳くらいの男の子がふたり、大声で話をしながらわきをとおりすぎていった。
お揃いの制服とキャスケット帽子が、カミラを惹きつけた。無意識に目で追ってしまう。
「でなー、マリア先生、いつもの三倍も宿題だしたんだぜ。な、うちのクラスだけ災難だろ。見せたかったよ、まじ、ツノがはえてたから」
「けどマリア先生の机に毛虫いれたのってだれかわかんないんだろ。全員まきぞえってやつかよ。よっぽど毛虫がだめだったんだな」
「ひとりの悪事は連帯責任とかなんとかわめいてたぞ。ちぇっ、おかげで遊びにもいけないや。くっそう、犯人がわかったらボコボコにしてやる」
「ははは、そりゃ犯人だって名乗りでられないよなあ」
近くの学校の生徒たちだろう。山のような宿題が待っているわりには、楽しそうだ。
子どもは学校に行って学び、友だちをつくり、元気いっぱい遊んで翳りなく笑うのがいい。親のいる子もいない子も、みな等しくそうであるべきだ。
もう二度と、邪魔者あつかいされる子どもたちを、見殺しにしてはいけない。権利も、笑顔も、奪えるだけうばいつくした挙げ句ゴミのように処分するなんて、人間のすることではない。
無惨に殺された子どもたちはけっきょくだれひとり身元も出生もわからず、ひとまとめにされて無縁墓地に葬られた。あとは花を手向ける者すらもない。
あれから冬がすぎ、短い春もまた夏に変わろうとしていた。連れ去られたテッドの消息はまったくつかめず、市からもなんの情報も得られなかった。
テッドの存在もまた意図的に、闇に葬られたのだ。最悪の結果は目に見えていた。
逮捕されたチェスターとカミラが、たいした取り調べも受けずに仮釈放されたのはあの夜からわずか三日後のことだった。ふたりの保証人として身柄を引き取りに来たフレッドが帰り道で悔しげに吐きだした言葉は、おそらく事実であるだろうと思われた。
「もうぼくたちを見張る必要もなくなった、ってことでしょうね」
すなわち、唯一の生存者であるテッドの口封じがとどこおりなく完了したと。
「まだ、戦いますか。チェスター、カミラちゃん」
チェスターは歯をきつく噛みしめ、カミラはぽろぽろこぼれおちる涙をぬぐおうともしなかった。
カミラの妊娠が確実になったのはそれからさらに時を経てからのことである。
テッドの弔い合戦にステージを移すという選択肢ももちろんあった。だがそれを実行するには、それ相応の覚悟が要ることをフレッドは指摘した。新しい命を宿して、そこまでの危険を冒すことをぼくは容認できない、というのが医者としての主張であった。
「この子を育てようぜ、カミラ」とチェスターは言った。「こいつはな、ちびすけの生まれ変わりにちげえねえ。きっと生意気で、口の悪いこぞうだぞ。な、おれたちで育てよう。いじめられることも、飢えることもねえ、いい町をつくって、そん中でのびのびと遊ばせるんだ。カミラよぉ、教師になるって夢、まさか諦めちゃいねえよな」
もちろん諦めなどしない。それは小さいときからの夢だからだ。自分に無関心だった両親のかわりに、カミラが慕ったのは担任となった教師であった。恩師に憧れ、いつか自分もその職に就くのだと、一生懸命に勉強してきたのだ。
チェスターはカミラの肩を抱いて、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「おれたちにゃ、やることがある。そうだろ」
ぼんやりと考えていて、馬車道に出ていたことに気づかなかった。「あんた、危ないよ!」という屋台のマンゴー売りの注意で我に返ったカミラは、あわてて道の端に身をかわした。
はずみで袋から毛糸が一個飛びでて、ころころと道をころがった。
「あっ……」
大きな車輪を軋ませ、馬車が轟然と迫ってきた。毛糸は無惨にはね飛ばされ、車輪に巻きこまれてあっけなく姿を消した。
カミラは硬直した。
馬車の後部座席。
紳士と並んで、少年が座っていた。正装をした、身分のよさそうな少年。その麦穂色の髪の毛に覚えがあった。
しかし、そんなはずはない。他人のそら似にちがいない。
だが、少年はたしかにカミラに気づき、こちらを見た。
無表情。なんの感情も読み取れない鳶色の眼。
「テッ……ド……」
一瞬のできごとであった。馬車はカミラの前を通りすぎ、砂埃をまきあげて通りの果てに去っていった。
カミラ。元気そうだ。
見えなくなる位置まで通りすぎたあたりで、テッドはようやく表情をなごませた。
もう出産も間近なのだろう。腹部ははちきれんばかりに大きくて、記憶している彼女よりも頬のあたりがいくぶんふくよかに見えた。
筋から入手した情報によると、夫婦となったチェスターとカミラは借家を退きはらい、フレッドの診療所で共同生活をしているという。医者と看護師見習いは相変わらず貧乏人相手の診療に明け暮れ、カミラは身ごもった身体で雑用などの手伝いをしているらしい。
前科のついたチェスターとカミラは出国こそ制限されているものの、日常的に監視されるわけでもなく、ふつうの人々となんら変わりのない自由意志による生活を保障されていた。
これでいい。自分はあの事件で死んだことにしておけば。この期に及んで彼らの前に姿を見せる気もないし、せっかく取り戻せた平穏な生活に小石を投げていたずらに波立てることもしたくない。残りの問題は時が解決するだろう。
三人とも、せいぜい凡人の幸せに溺れながらその生涯を終えてくれ。願わくば自分の記憶が、つまらぬ足枷とならぬよう。
カミラも紋章に翻弄される己を匂わせていた。少なくとも、彼女はソウルイーターを守護する村の存在を知っていた。さまざまな断片から、ある程度の結論は導きだそうと思えばできる。
事情は聞いていないし、いまさら知りたくもない。ただひとついえることは、テッドが消えることがすなわち、彼女がその運命から解放されるということだ。これ以上、そこにある関係性を追求するのは、自分にとってもカミラにとっても、おそらくは不幸なことなのだ。
だから、もうこれでなにもなかったことにしてしまおう。おれはもう、この世界のどこにもいない。消滅した。見たこと、聞いたことをおまえたちはすべて忘れるのが最善の道。
フレッド。チェスター。カミラ。
それでも憎みつづけるであろう醜いおれを、いますぐに忘れてしまえ。
そして、おれにその姿を見せるな。
もう、二度と―――あの生ぬるく、居場所のない日だまりには戻りたくない。
横から粘着質な視線を感じた。マコルフだ。
「外におもしろいものでもあったか」
「べつに」
「なんだ。おまえの笑う顔はひさびさに見たと思ったがな」
「……気のせいじゃねえの」
養父との会話は長く続いたためしがない。テッドはさもなにもございませんでしたをよそおって、行儀悪く足をぶらぶらさせた。どういうしぐさが父親の嫌悪感を増幅させるのか、経験で知っているのだ。
テッドは自由に外出することを許されてはいない。たまに養父の伴として連れだされるくらいである。信頼関係とはほど遠いところにいるのだから、当然といえば当然の措置だろう。
もちろんいい息子を演じる気はさらさらないし、むこうもそんなことは期待しておるまい。
どのみち逃亡は非現実的であるわけだから、徒労とわかりきっている努力はしない。
塩湖を見下ろす高台にある屋敷内で高級犬よろしく飼いながら、マコルフはテッドにそれほど多くのことを要求はしなかった。後継者として勉学をさせるでもなし、経営の基本知識や戦闘のしかたを叩きこむでもなし。理論は無用という考えかたはテッドも賛成であり、ほんとうに必要なチャンスのみをくれるマコルフを心底ありがたいと思った。
実践すること。その経験だけが真に役立つ。負けて音をあげればそこまで。使い物にならないとあらば、すぐさま以前のように廃棄されるであろう。
息子と呼ぶその口元にわずかの愛情もうかばない。とても理想的な関係だ。
なにか使える紋章がほしいと言いだしたのはテッドである。それまでもテッドが必要であると判断したものを、マコルフはすべて買い与えてくれた。
旧市街に名高い紋章師が店を構えているとマコルフは言い、それから軽蔑するように笑った。養父が紋章に対してまったく興味のないことは、すでに了解の上である。
いまは留置場にいるユーノス・オーウェンが執着したテッドの右手にある紋章も、マコルフは一瞥しただけである。それがほかの一般的な紋章とちがうものであることも、おそらくは気づいているだろうが、まったく意に介さないといった顔をする。根本的にマコルフは、紋章に頼る戦術を己の分野とみなしていないのである。けして否定するわけではなく、ただ領域の外に置く。
善人ではないが、非凡で賢いマコルフをテッドもひそかに賞賛した。
高齢の女紋章師はテッドとマコルフを垂れ幕の奥にある薄暗い部屋に招き、座ってリラックスするようにうながした。紋章を宿すのは精神的な作用が深く関わってくる。依頼主がまだ年端もいかない子どもであればなおのこと、紋章師には高度な手腕が要求される。
「いままでに紋章を身につけたことはおあり?」と彼女は訊いた。テッドは少し迷って、首を縦に振った。
「利き手はどちらかしら」
「右」
「では、そこに宿しましょうね」
「だめ。もう、ひとつ持ってるから」
紋章師は驚いた顔をして、「見せてくださる」と言った。
この人は気づくだろうか。それ相応の知識は持っているはずだが、真の紋章などおそらく実際に目にしたことはあるまい。へたに騒がれて、マコルフの機嫌を損ねたらまずいことになる。
「手袋をはずしなさい、デイジー」
先手を打たれた。逆らってはよけいに事を荒立てる。テッドは観念して、革手袋を脱ぎ捨てた。
紋章師は眉をひそめて、「おや、まあ」と言った。眼鏡をとりだし、皺だらけの鼻にかける。
右手をとられて、テッドは居心地が悪くなった。こんなに近くから舐めるように観察されたのははじめてだ。しかも相手は紋章のプロ。見破られるのも時間の問題かもしれない。
「なんともまあ、禍々しいこと……あの、美人の紋章師さんが見たら、なんというかしら」
意味不明なことをつぶやき、老いた紋章師は手を離した。なにかを納得したように何度もうなずいている。
「さて、どのような紋章をお望みなの、ぼうや」
あまりにも呆気ないので、テッドのほうが狼狽してしまった。
「ええと、あの……」
優柔不断はマコルフの好まないもののひとつである。気をとりなおし、冷静な交渉をテッドは試みた。
「……幅広く、攻撃から防御まで、さまざまに応用できるものがいいんだけど」
「そうね。紋章には根本的な向き不向きのほかにも、相性というものがあるの。宿しただけでは使えないのと同じように、使っているうちに自分にあったものが読めてくる。そういうものかしら。一般には、魔術を専門に教える指南所で一定期間訓練をうけるものですけれど、そのお考えはどうですか、お父様」
マコルフはきっぱりと否定した。
「無駄なことはさせん。紋章がほしいとこの子がいうので来てみただけのことだ」
「わかりました。ぼうやの才能は未知数ですが、開花するもしないも本人次第とご納得いただけるのなら、お売りしましょう。個性的なものを望まれるお客様が多いですけど、ぼうやには水の紋章をおすすめしようと思います。水は命のみなもととなるもの。これからたくさんのものに出会い、たくさんのことを吸収するであろうぼうやにもっとも相応しい紋章です」
「じゃあ、それで」
テッドは即決して頭を下げた。マコルフは無言で見守っている。
紋章師は薄闇にふわりと手をかざした。そこに、まるで魔法のように紋章球があらわれる。水晶のようなその球の中心で、清冽な色をたたえたさざなみが魅惑的にゆらめくのが見えた。
「左の手をだしてください。痛くしませんから、身体の力を抜いて。らくに呼吸してくださいね。そう、じょうずよ」
まるでプリズムから蒼だけが放たれて乱反射したような感じだった。圧倒的な光に包まれたのは一瞬で、なんの苦痛も違和感もなく、気づいたときに紋章はもうテッドの左手にあった。
「ああ、思ったとおり。とても理想的に受けいれてくれたわ。はい、これでおしまい」
マコルフは怪訝な顔で、「使いかたを聞いておかなくてもいいのか」と言った。
「その必要はないでしょう。ねえ、ぼうや」
振られて、自信がないにもかかわらずテッドはうなずいてしまった。紋章師の過大評価か、それとも、ソウルイーターのことを見透かされているのか。冷や汗がシャツの内側をつたい、無性に喉が渇いた。
とりあえず冷たい水が飲みたい、と思った。水の紋章は宿主の渇きを癒してはくれないのだろうか。宿したばかりで契約すらも終えていない新しい相棒は、対岸でじっと眼を光らせている邪悪な先住者に怯えたのか、応じようとする気配を少しもみせてはくれなかった。
「おまえにまかせたい仕事がある」
夕食の席で、マコルフはめずらしく例の佞奸な口調で切りだしてきた。
オーク材の長テーブルはふたりで使うにはかなり広すぎ、短辺に向かい合わせに座ると会話も成り立ちにくい。それはそれで結構なことだが、距離をおくつもりなら最初からひとりで食事をさせてくれればいいのにと思う。
白身魚のムニエルを不器用に解体しながら、テッドは怪訝そうに眼をあげた。
マコルフは口元をナプキンで拭ったあと、赤ワインで唇を湿らせた。
「保守党のランゼイ・スミッソンがここのところよく吠える。あれはしょうしょう、出しゃばりすぎだ。煩いだけでなにもできないバカ犬は、しつけなくてはならん」
「犬の散歩をしてほしいの?」とテッド。
「いや、それはおまえの役目ではない。手はもう別のところに打ってある。要はだな、州議会が保守党を欠かして均衡を失ったときに、蔓延している悪癖をすべて一掃する人材がほしいのだ。革新的でないやつらはこの国には要らん。労働党のザックス派、それから自由連合はできるだけ手元に残したい。いままでかなりの犬どもを野放しにしてきたが、不必要なものはこの際切りすてることにした。州議会は解散総選挙に追いこまれる。そして、おれが出馬する」
テッドは無言でフォークに刺したカリフラワーを口に運んだ。料理長は風邪でもひいたのだろうか。味が薄く、ボソボソと固い。
「おまえはまだ子どもだから、選挙に関わることは禁じられている。だからこそ、自由に動きやすい。おれが不在のあいだ、指揮を執れ。マコルフ・ボナパルトの子なら無条件で従う人間をつけてやる。ただし、やり方は教えん。自分で考えるんだ」
「つまり”父さん”は、国を掌握したい。そういうことね」
「デイジー、誤解しているわけではなかろうな」
「目的ではなく、手段のひとつっていいたいわけだろ。いちいち確認しなくたって、意味くらいちゃんと考えてるって」
給仕が食後の茶を運んできた。テッドは骨とカリフラワーの屑だらけの魚をほじくる努力を放棄し、フォークを置いた。
「これからは別行動になるときも多かろう。けしてへまはするな。おかしなことも考えるな」
「了解。父親にくびり殺されるなんてぞっとしねえからよ、不承不承やらせてもらいます、ってか」
拒否する理由は見あたらない。ない。そういうシナリオなら懲役受刑者の顔をしてこちらから関与させてもらうのも一興。どうせ退屈しているし、この国には少しばかり恨みもある。人を嘲弄した罰は利子もつけてきちんと償ってもらって、それからまた以前のようにあてどもない旅を続ければいい。
マコルフがどうなろうとテッドの知ったことではない。そのへんはソウルイーターの勝手にさせる。結果的にそうなったところで、べつに良心が痛むわけでもない。
いや、むしろ願ったりだ。
テッドは行儀悪く足をぶらぶらさせ、頬杖までついて養父マコルフ・ボナパルトを挑発した。
子どもたちを汚いからという理由で虐殺し、いままたこの国を意に添わないからという理由で傀儡に貶めようとする男。
罪悪や不道徳の充満する町は見た目にはそこそこ華やかであろう。劇場型の政党逆転は諸国の注目を浴びる。相場師はこの国に投資し、塩産業も栄える。
けれど築かれるものはしょせん、砂上の楼閣。神の劫火に焼かれるしかない。
天罰がくだるその時、身の毛もよだつ思いをさせてやったら、この男の自信に満ちた顔も無様に歪むであろうか。
願いでて悪魔の父親になることを了承したのだ。その望み、きっちりと叶えてやる。
もはやどこにも、逃げ場などない。
おまえの穢れた魂、おれがもらった。
最終更新日:2006-10-10(テッドの日)
