償いと許しを司る紋章。
その名を、罰、と言う。
ある一時期、おれのもっとも近くに存在していた真の紋章がそれだ。
その少年は左手。おれは右手に紋章を宿していた。
左と右。
そのふたつの手で握手は交わせない。
運が、よかったのだ。
迂闊に触れあっていたらいまごろ歴史はどっちへころがっていたことやら。
おれたちには、いつだってあいだを隔てる壁があった。
少年は一軍を率いるリーダーとして多忙を極めていたし、おれも自分の都合でいっぱいいっぱいだった。だから友だちのように馴れあうことはいっさいなかった。
彼にはもとから大勢の友だちがいた。
対するおれは友だちをつくる気などさらさらなく、近づく者すべてを突っぱねていた。
真の紋章の宿主どうしだからといって特別な関係でなくたっていい。
この位置関係がいわゆる均衡というやつだ。他者の思惑によって引きあわされたにしろ、おれにとってのあいつは、ただの恩人。それ以上の感情もどこかにあったかもしれないけれど、おれは立場というものをきちんとわきまえていたから、表に出すことはしない。
この戦争の主役は彼。おれは借りを返すために手を貸しただけ。
勝利しても敗北しても、おれは少年と袂を分かつことに決めていた。彼のことはきらいではないが、これは無用の縁である。真の紋章は本来、ふたつがひとつところにあってよいものではない。あまりにも強大な力は、相互作用によってさらなる不幸を招きかねない。
おれが残留を承諾したのは、興味本位と単なるわがままからだ。
破滅と紙一重のところにあるおれたちの邂逅。
すべてが仕組まれた物語。
だれが仕組んだかって? そんなことは重要ではない。この世界は人間には想像もつかないような大きな思惑で動いている。
ひとたびほとばしった流れはけして止まらない。行き着くところに到達するまで、見届けるしか道はない。
そしておれは目撃した。
真の紋章を宿した少年の死。
左の手に焼きついたまま、紋章は輝きを失った。
いや、ちがう―――眠った、のだ。
宿主をつぎつぎに替え、忙しなく寄生して歩いた罰の紋章が、少年を特別と認めたのだ。
紋章が己を封印する。そういうこともあるのだと、おれはそのときはじめて知った。
自分の目で見たことだけが真実。
少年が身を挺して遺した『真実』はおれにとっての最後の救済に思えた。
償いと許しをその身に宿した少年は、蒼い瞳が印象的だった。
名前は、ノエル。
いまとなっては顔もおぼろげで、記憶もあやふやである。だがいつまでも忘れない色がある。
それが少年の瞳。あれは、そう、穢れなき海の蒼だ。
